日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: C-27
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C:岩石・鉱物・鉱床学一般
高温高圧条件下における一の目潟超塩基性下部地殻岩のP波速度測定
*西本 壮志石川 正弘有馬 眞吉田 武義
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抄録

 秋田県男鹿半島・一の目潟には地殻-上部マントル起源と考えられている捕獲岩がカルクアルカリ噴出物中に含まれている.東北本州弧は典型的な島弧として様々な研究が行われており,同地域の岩石学的モデルも数多く見積もられている.(Aoki, 1971; Takahashi, 1978; Zashu et al., 1980; Takahahi, 1986 など).近年東北日本では大規模な人工地震実験観測が行われ (岩崎ほか;1999,Iwasaki et al.;2001),東北本州弧のP波速度断面が得られた.同地域の下部地殻は厚さ15 km,P波速度は6.6-7.0 km/sであり,一般的な大陸地殻や伊豆-小笠原弧,アリューシャン弧の下部地殻P波速度よりも0.1-0.3km/sも遅いことが明らかになった. Nishimoto et al. (2000) では一の目潟ゼノリス(角閃石斑糲岩,角閃岩,スピネルレールゾライト)のP波速度を初めて高圧条件下(1.0GPaまで)で測定し,岩崎ほか(1999)のP波速度断面と比較することにより東北本州弧の岩石学的モデルを検討してきた.従来,実験岩石学的見地からP波速度とSiO2量には負の相関があることより,東北日本で行われた人工地震観測から,東北本州弧下部地殻の平均化学組成は安山岩質と調和的であると見積もられてきたが,西本ほか(2002)では一の目潟捕獲岩のP波速度とSiO2量の関係から,東北本州弧の下部地殻は玄武岩質であり約15 kmの角閃石を含むハイドラスな超塩基性-塩基性層で構成されていることが明らかにした.しかしこれらの結果は,常温(25℃)でのP波速度とIwasaki et al. (2001)の速度断面を比較するために,測定したP波速度を東北本州弧地下の温度圧力状態を考慮して温度補正を行っているため,より正確な見積もりを行うには東北本州弧の地温勾配を考慮した高温での測定の必要性がある. 本研究は,より高温で弾性波速度測定ができるシステムを用い,東北本州弧地下の圧力温度状態考慮した高圧・高温状態(1.0 GPaまで,800℃まで)で捕獲岩の弾性波速度を測定することにより,より総合的な東北本州弧地殻・上部マントル構造を解明することを目的としている.高温実験に用いた試料は,角閃石斑糲岩(41.3 wt.% SiO2),輝石角閃石斑糲岩(43.7-45.6 wt.% SiO2)角閃石岩(44.6 wt.% SiO2),角閃岩(38.6 wt.% SiO2)であり,0.6 GPa,1.0 GPa条件下で,温度をそれぞれ25-600 ℃,25-800 ℃の範囲で変化させた.角閃石斑糲岩では,0.6 GPa,25-600 ℃において速度低下がみられ,P波速度は6.80-6.58km/sであった.25 ℃と600 ℃時における速度差は約0.23 km/sとなった.同様に,輝石角閃石斑糲岩では7.00-6.86-6.77-6.66 km/s,角閃石岩では6.89-6.46 km/s,角閃岩では6.81-6.40 km/sの範囲で温度上昇とともにP波速度が低下した. 東北本州弧下部地殻の温度分布を推定するために,Zhao et al.(1992)における地震波速度分布の下部地殻レイヤーと本実験から得られたVpの最小二乗法による見積りとの比較を行った.-2%の速度減衰域で地下の平均温度は750℃,-3%で898℃と東北本州弧の地温勾配とほぼ調和的な値を示したが,-4%以上の減衰域では1000℃以上となり,-6%では1342℃となった.これは少なくとも固相状態の下部地殻岩の温度としては現実的でなく,-4%以上の速度減衰域には少なくとも部分溶融体の存在の可能性が指摘される.

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© 2003 日本鉱物科学会
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