日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G7-17
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G7:火山及び火山岩
霧島火山群・御鉢火山におけるマグマ系の進化
*宮本 毅
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抄録

島弧火山のマグマ発達史としてその活動の初期にソレアイト系列岩,後期にカルクア ルカリ系列岩が卓越する.これは初期に噴出した玄武岩質マグマを熱源として地殻の 部分溶融を引き起こし,以後マグマ混合が主たるプロセスとなるためと考えられてい る(例えば高橋・高橋,1994).
  南部九州に位置する霧島火山群の活動は主にカルクアルカリ系列安山岩による小型成層火山の活動で特徴づけられるが,御鉢火山は例外的に苦鉄質のソレアイト系列岩よりなる.御鉢火山は南九州の火山フロントとなる火山群の南東端に位置し,約1200年前にその活動を開始した比較的新しい火山である.御鉢火山の活動以前,火山群南東部(御鉢火山直下近傍)では約3000年間にわたって火山活動はない.現在の火砕丘は8世紀の片添スコリア(KzS),13世紀の高原スコリア(ThS)の2回の活動で形成された.この2回の噴火が噴出量の大部分を占め,以後は小規模な活動が続いている.KzSとThS間にも中規模の噴火活動を行っており,御鉢火山活動開始後は100-200年の間隔で活動を繰り返している.このように御鉢火山では数千年の休止期の後に断続的な活動を行っており,玄武岩質安山岩火山のマグマ発達史をみることができると考えられる.
  御鉢火山の活動は時間とともに,ソレアイト系列岩,Subordinate tholeiite系列岩(高温のカルクアルカリ系列岩),カルクアルカリ系列岩と変化する.大部分は前者2つであるが,両者の変換点はThS噴火であるこ,とから,大規模な活動であるKzSとThSにおけるマグマの多様性の成因を比較することで御鉢火山のマグマ発達史について検討する.
  KzS,ThSともに最も未分化なものはカンラン石普通輝石玄武岩質安山岩で,いずれも含水,2kb以下の条件で安定な鉱物組み合わせをもつ.未分化岩のSr同位体比組成はほぼ同一であり,低圧に至るまでの分化過程は同様であったと推定される.KzSの活動ではソレアイト系列岩のみが噴出しており,その組成幅は広く,SiO2=53.5-59wt.%,FeO/MgO=1.8-3.0である.全岩組成変化は同化分別結晶作用で説明可能であり,斑晶鉱物組み合わせの変化から複数のマグマ溜りが形成されたと考えられる(宮本,2003).ThSの活動では初期にSiO2=53wt.%のソレアイト系列岩が噴出し,その後,このソレアイト系列岩とSiO2=63wt.%のカルクアルカリ系列マグマを両端成分としたマグマ混合によるSubordinate tholeiite系列岩へと移行する.KzSとは対照的に苦鉄質端成分マグマが結晶分別作用をうけたと考えられるマグマはこの活動以降(ThSを含んで)噴出していない.
  以上のように御鉢火山を形成したメインの2つの活動では,低圧下におけるマグマの分化過程に大きな相違が認められる.つまり,御鉢火山最初期の活動であるKzSでは結晶分別作用が効果的に働いており,マグマは周囲地殻からの冷却によって効率的にマグマ組成を変化させたと考えられる.一方,ThSではソレアイト系列マグマは結晶分別作用による組成変化を示さず,地殻の部分溶融で形成されたマグマとの混合によってマグマ組成の多様性を形成している.KzS以前には3000年の活動休止期があり,冷えた地殻内に貫入したマグマは冷却が効果的に進行するのに対して,断続的な活動に移行した後のマグマでは冷却が進行せず,むしろ地殻物質の部分溶融を伴っている.これは御鉢火山の活動開始により,御鉢火山下の地殻浅部が加熱されていく過程を反映している可能性が挙げられ,ThS噴火以降はマグマ混合によるSubordinate tholeiite系列岩とカルクアルカリ系列岩の活動となることは島弧火山のマグマ発達史の特徴と調和的である.

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© 2003 日本鉱物科学会
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