日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G5-04
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G5:初期地球と隕石
窒素・水・鉄への衝撃によるアンモニア生成:初期地球隕石海洋爆撃の模擬実験
*中沢 弘基関根 利守掛川 武中澤 暁
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抄録

はじめに
アミノ酸をつくるために不可欠なアンモニアが地球上で如何に生成したか、は生命の起源に至る化学進化の研究の出発点であろう。アンモニアの生成は非還元的な大気中では困難で、最近は原始海洋中で生成した可能性が追及されている。原始地球に関するこれまでの研究を縦覧すれば、グリーンランド、イスア地域の変成岩が堆積岩起源であることから、38億年以前に海洋が存在していたことが推定され、月の土壌の年代決定から地球の生成にかかわった激しい地球外物質の集積は、35億年前まで継続したことが推定される。大陸の起源は未だ不明で、原始地球のほとんどか、あるいは全体が海洋で覆われていたと推定される。従って、隕石は海洋に衝突していたはずである。既知の隕石で最も落下頻度の高い普通コンドライトは、数十%の金属合金を含んでいる。金属鉄を含む隕石の海洋衝突は、当然、水を還元して水素の発生が期待され、同水素と大気中の窒素によるアンモニアの生成が期待される
実験
 本研究は、衝撃実験により上記可能性を確認することを目的とした。ステンレス製の容器にCu3N(窒素源), H2OおよびFeを封入し、ステンレス製飛翔体(0.8∼1.1km/s) を衝突させた後、容器内の水溶性成分を取り出して分析し、アンモニアの発生を確かめた。
結果
 本実験により、実験前に封入した窒素(Cu3Nおよび大気窒素)のうち8%がアンモニアになることが確認された。本実験は、金属鉄を含む普通コンドライトが海洋に衝突した場合を"定性的に"模擬するが、水や窒素がほとんど無限にある天然の隕石海洋衝突を"定量的に"模擬するものではない。従って、アンモニアの生成量は封入された水および窒素量で制限された。
 本実験で用いたCu3NおよびFe粉末には、不純物としてそれぞれ0.1wt% および0.02wt% の炭素が含まれていたが、それらが水素添加されるとともにアンモニアと反応して、グリシン、アラニン、セリンなどのアミノ酸が生成され、それぞれ定量的に測定された。
検討
 本実験により、鉄を含む普通コンドライトの海洋衝突で容易に、アンモニアが生成することが証明され、かつ、微量に含まれる固体炭素を原料に各種アミノ酸が生成することが明らかとなった。実験でのアンモニア生成量は、封入されたH2OおよびNの量に制限されるが、隕石海洋衝突では還元剤としての鉄の量に依存しよう。径50m規模の普通コンドライトが10%程度の鉄を含むとして計算すると、3900tのアンモニアの生成が可能である。同隕石に0.1%の固体炭素が含まれていて全部反応すれば、グリシン相当のアミノ酸は1200tも生成する。
 ミラーの放電実験〈還元型大気〉の成功に反し、非還元型大気ではプラズマや電磁波などを照射してもアンモニアやアミノ酸は生成せず、生命の起源に必要な分子の起源を宇宙空間に求める研究者も多い。本実験は、非還元型大気であっても局所的には還元反応が進行し、多量な生成物が海洋に溶解することで生き残ることを示している。生命の素は、地球外固体炭素と地球の空気(N2)と水から、地球上で生成したと考えるべきである。

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© 2003 日本鉱物科学会
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