複変成地域の熱構造の発達過程を読み取るには、各変成作用の識別が必要不可欠である。京都府笠置地域には、広域変成作用とその後の新期領家花崗岩の貫入による接触変成作用を被った領家変成岩が分布するが、珪線石帯では接触変成作用の影響が明らかにされていない。珪線石帯低温部の紅柱石は、自形性が悪く、セクター構造を持たず、面構造内で長軸の方向が揃う傾向があり、セクター構造を持つ自形性の良い接触変成起源の紅柱石と異なることから広域変成作用起源と考えた。珪線石帯低温部には珪線石も産するが、面構造を切る脈を形成したり、ネットワーク状の組織を呈し、周囲に斜長石が存在しない傾向がある。熱力学計算から流体流入により長石や黒雲母が溶解され、珪線石が形成されうるから、これらの珪線石は花崗岩起源の流体の影響で形成されたと考えられる。よって、少なくとも本研究地域の珪線石帯低変成度部でも接触変成作用の影響が及んでいる。