1991 年 37 巻 1 号 p. 46-54
アルツハイマー型老年痴呆 (SDAT) の原因が, 前脳基底部にあるマイネルト核のアセチルコリンニューロンの変性・脱落によるとする『コリン仮説』が提唱されている. 本実験ではラット胎仔脳の腹側淡蒼球 (VP, ヒトのマイネルト核に相同) を成熟ラットの側脳室または第三脳室に移植し, 宿主と移植組織のアセチルコリンニューロンをコリンアセチルトランスフェラーゼ (ChAT) の免疫組織化学と, アセチルコリンエステラーゼ (AChE) の組織化学により観察した. 更に向精神神経薬の作用を研究する実験的アプローチとして, 移植ラットに脳機能改善薬であるビフェメランを3週間腹腔投与した. 移植VP組織は宿主脳室内で生着成長し, ChAT免疫陽性ニューロンは染色されたが, コリン性線維は殆ど認められなかった. KarnovskyとRoot (1964) のAChE染色は非特異的反応が強いため改変した結果, AChE陽性ニューロンとAChE陽性線維が移植組織と宿主の両者で染色された. ビフェメラン投与では, 対照群に較べAChE陽性線維が移植組織内により多く分布する傾向が認められた. 脳内移植実験系は移植ニューロンの動態を指標として, 成長因子や薬物の作用を解析するのにも有用な研究法であると考えられる.