順天堂医学
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特集 MRSA(新型多剤耐性黄色ブドウ球菌)感染症とその対策
消化器外科手術後MRSA感染症とその対策
渡邉 千之石山 賢細井 睦美山田 省一森岡 恭彦奥住 捷子
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1988 年 34 巻 3 号 p. 296-306

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抄録

消化器外科手術後の感染症例から検出された細菌を, 第三世代セフェム系抗生物質が開発される以前の1980年の65例, この抗生物質が頻用されるようになった1985年の85例, および検出細菌の変化への対応を始めた1986年以降の61例について検討したところ, 1980年では71%がグラム陰性菌であったが, 1985年以降にはグラム陽性菌が過半数を占めるようになった. 中でもS. aureusの増加が顕著で, そのほとんどはメチシリン耐性ブドウ球菌 (MRSA) が占め, トキシック-ショック症候群毒素 (TSST-1) 陽性の毒性の強い菌が主体であった. 1986年以降4回のS. aureus集団発生がみられ, 症状としては, 高熱・粘稠な排膿が多かったがトキシック-ショック症候群に特徴的な症状はなかった. S. aureus増加の背景因子としては, 高齢者・肝硬変・大手術侵襲患者など生体防御能の低下した患者の増加と, 術後に予防投与された抗生物質がMRSAを誘導し易い第三世代セフェム系抗生物質であったことが挙げられる. MRSAに有効な抗生物質が無い現状では対策は予防に主体が置かれ, 術後の予防投与抗生物質にはMRSA誘導性の低いものを選択する, 不必要な長期留置カテーテルを避ける, 医療従事者の衛生意識の高揚等が考えられる.

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© 1988 順天堂医学会
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