日本応用動物昆虫学会誌
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イネカメムシの生態に関する研究
VI. 成虫の歩行活動に及ぼす照度,気温,湿度の影響について
大内 実
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1959 年 3 巻 1 号 p. 7-15

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抄録

イネカメムシ成虫の歩行活動におよぼす照度,気温,湿度の影響について研究した。
1) イネカメムシの歩行活動の日週性を見ると,活動率(歩行虫数/調査虫数×100)は5∼17時には0∼60%で,その平均は雄が14.0%,雌が8.6%である。また活動率0∼30%の相対度数はそれぞれ雄では84%,雌では95%である。19∼23時には照明して観察した結果によると,活動率は0∼100%でその平均は雄が52.4%,雌が46.1%である。また活動率30∼90%の相対度数は雄雌ともに75%である。
2) 歩行活動と照度との関係を見ると,日週活動の山が見られるのは日出の約1時間前で照度が0.5ルックス以下において,日没の際2ルックスあるいはそれ以下の照度である。後半夜には静止するが僅かな光がある場合は活動する。日出前活動が著しい間は短時間であるが,日没には10∼30ルックスから照度が低くなるにしたがって活動が高まってゆき,上述のような経過をたどる。この種の活動型は夜行性昆虫において明適応および暗適応の際にそれぞれ示される。したがってイネカメムシの歩行活動の山も同様に光環境の変化に適応する際に示されるものと思われる。日中の活動は夜間の活動よりも低調であるが,日中の照度との間に密接な関係が見られない。また著しく高い照度でも活動を完全に抑制しないが,ある程度抑制しているものと思われる。以上の結果最高の歩行活動が見られる照度は0∼2ルックスの範囲内にあることがわかる。
3) 歩行活動と気温との関係を見ると,正常な歩行活動は冬季には室温約16°C以上において,夏季には約22∼30°Cの範囲内において行われる。
夏季5∼23時における歩行活動を見ると,5時,19∼23時には気温との相関は低いが,夜間は盛んである。7∼17時における活動率は気温の上昇とともに高くなってゆくが,最高の活動率を示す気温は9∼13時では26∼27°C, 15∼17時では27∼28°Cで,大体午前においては午後よりも低い傾向を示している。なおこれらよりも高い気温では活動は衰え,約29°C以上では全個体が静止する場合がある。この最高の活動率を示す気温を最適気温とみなし,7∼23時における歩行活動と気温との相関係数を求めると,最適気温以下の場合雄雌ともに9∼15時において相対的に高く,雄は0.81∼0.95,雌は0.88∼0.99の値を示す。その他の時刻では低く特に夜間には低い。また9∼15時においては気温が最適温度より高くなるが,相関係数は負に変り13時に最高となり,雄は0.93,雌は0.95の値を示し,その他の時刻では低い。活動に対する最適気温が時刻によって異なるのは,活動を規制する体温と気温との差が時間の経過とともに変化し,朝は大きく日中は小さいためである。
4) 5∼23時においては歩行活動と湿度との間には全般的に低い負の相関関係がある。相関係数は雄雌ともに7∼11時において相対的に高いがその他の時刻では低く,著しい変化がない。歩行活動に対する気温と湿度の影響を各調査時刻別に比較すると,7∼19時では気温のほうが大きく,21∼23時では湿度のほうがやや大きい。早朝では高湿のために静止する個体が多く,特に雌に多い。

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