Dynamics & Design Conference
Online ISSN : 2424-2993
セッションID: 605
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605 電動車いすのコントロールアシスト法
百生 登大島 徹
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抄録

急速な高齢化が進行しており自立支援としての車いすの使用が増加している.それに伴い乗り心地の良いヒューマンフレンドリーな電動車いすが求められている.電動車いすの乗り心地には,座り心地,安定感,騒音,操作性など様々な要因が影響を与えるが,急激な加減速による乗り手の体幹の振れも乗り心地にかかわる大きな要因である.市販の電動車いすの多くはジョイスティックを操作素子とするが,ジョイスティックは前進・後退および旋回の微妙な操作が手先の僅かな変位により指令可能であり有効なマン・マシン・インターフェースデバイスである.しかし,ジョイスティックは微妙な操作を要求するため,高齢者や障害者にとって操作が難しく,習熟するまでは急加速や急減速となる傾向にあり,体幹が振れやすく乗り心地に大きな悪影響を及ぼす.本研究では,乗り心地を決定する要因のひとつとして電動車いすの加減速時の使用者の体幹の振れに着目し,操作者を含めた電動車いす系(human-Electric Powered Wheelchair system;以下h-EPW)をモデル化し,体幹の振れ角の推定にカルマンフィルタを用いた最適レギュレータによる安定化制御法を設計し,その有効性について検討した.設計したコントローラをYAMAHA JW-IIをベースに制作した補助動力付き車いすに搭載して,体幹の振れの抑制効果を検証し,被験者の主観に基づく乗り心地を官能検査により評価し,本制御法の有効性を検証した.対象とするヒト-電動車いすモデルを図A1に示す.モデルは,ヒトと電動車いすより成り,ヒト下体と電動車いすを一体とし,バネとダンパで支えられた上体のみが揺動するものとする.ヒトの上体を支えるバネ・ダンパ特性はヒトによる能動的な制御の結果であり,単純ではない.さらに,上体の支持が困難な乗り手に対してはベルトなどで固定することもあり,肘掛けなど手の位置の影響も受ける.本モデルでは,それら全てを定数のバネとダンパでモデル化した.操作者の体幹の振れを抑制するため,状態フィードバック制御を適用した.制御系は左右一対のDCモータおよび電流制御用のアンプとマイクロコンピュータで構成され,ジョイスティックからの速度指令に対し,エンコーダからの速度フィードバックにより,最適レギュレータによる状態フィードバック制御を行う.体幹の振れ角の測定は操作者の負担となるため,本研究ではカルマンフィルタによる推定値をフィードバックすることとした.なお,旋回方向成分は従来の電動車いすと同様速度制御(PI制御)を行う.被験者は成人男女5名,内3名(A,B,C)は車いす使用者であり,2名(D,E)は健常者である.車いす使用者の障害については,それぞれ外傷性脊椎損傷,脳性麻痺,二分脊椎症である.実験では評価関数の重み行列の異なる4種類の状態フィードバック制御と速応性を重視して調整されたPI制御について,電動車いす速度,体幹の振れ角の測定と,被験者の主観に基づく乗り心地を5段階で評価してもらった.本制御法によって,体幹の振れ角は抑制されることが実験で確かめられた.図A2は減速時の最大の体幹の振れ角と乗り心地の評価の関係を示す.被験者ごに体幹の振れはばらつきがあるが,概ね体幹の振れが小さいほど乗り心地の評価点が良く,体幹の振れを抑制する本制御法により乗り心地が改善されることが明らかとなった.

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© 2006 一般社団法人 日本機械学会
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