2009 年 66 巻 12 号 p. 536-549
結晶性高分子の溶融状態からの等温結晶化過程における規則構造発展の様子を,赤外スペクトル,広角および小角 X 線散乱高速測定データに基づき,分子レベルから結晶格子,高次組織に至るさまざまのレベルから検討した.対象としてイソタクチックポリプロピレン(iPP),ナイロン 10/10,ポリオキシメチレン(POM)を選択した.iPP の場合,赤外スペクトルにおける臨界連鎖長の概念を利用し,溶融状態の中での規則的らせん鎖セグメントの形成ならびに成長過程を描いた.また SAXS, WAXD データからは,規則的らせんセグメントが集合した孤立ドメインの生成,ドメインどうしの接近および相関の増大,そして,ついには積層ラメラ構造への発達と,らせん状分子鎖の形成と発達に平行して生じる高次構造の発展プロセスを明らかにした.ナイロン 10/10 の場合,溶融状態でも弱いながら水素結合がアミド基間で形成されており,等温結晶化が始まる時点で既に,水素結合で結ばれた分子鎖集合体が系全体にわたって不均一に形成されていることを明らかにし,iPP の場合との大きな相違点を指摘した.POM については,伸びきり鎖結晶(ECC)や折れたたみ鎖結晶(FCC)の存在を敏感に反映する赤外バンドを利用し,ラメラ構造形成に至るプロセスの中での FCC および ECC モルホロジー発生の様子を観察するとともに,それが,親ラメラの間の非晶部分で起こる子ラメラの発生と強く関わっていることを明らかにした.