日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science)
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脱神経筋に関する筋電図学的研究(犬)
稲田 七郎菅野 茂茨木 弟介
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1963 年 25 巻 6 号 p. 327-336_4

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抄録

神経-筋系の機能を系統的に分析し, 併せて神経-筋系に起る各種の疾患の診断, 予後の判定等に筋電図法を応用するための基礎的な知見を拡充する目的で, 従来, 犬に関しては系統的な報告を欠いている中枢神経系と全く連絡を断たれた脱神経筋に現れる異常筋電図を分析した. 即ち, N.femoralis を切除し(20~25mm), 切除翌日から約3週間に亘って, 脱神経された M. quadriceps femoris (主として, M. vastus lateralis) について, 同心型針電極誘導(1/4皮下針使用, 100ミクロン1心)と, 銀針(先端から3mm絶縁剥離)2本を使用した単極誘導(電極・間距離1cm)とによって, 脱神経後に現れる異常筋電図を検索し, 次の結果を得た. (1) 脱神経筋から誘導される異常筋電図の放電パターンは, 脱神経後の経過日数によって変化した. 即ち, 最初の4日間はいわゆる electrical silence であったが, 5日には, 繰返して放電する性質が極めて弱い散発性の放電が出現した. 次いで, 放電の密度は日を追って急激に増強し, 1週の終り頃に, 観察の全期間中で最高の放電密度を示し, その後, 放電密度は逆に漸減した. また, 脱神経筋の放電は, 電極挿入後暫く時間を経過する間に, 常にその密度を漸減 attenuation したが, 電極挿入後約3分を経過する間に, 激しい attenuation は殆んど止み, その後, 略々定常な放電が残留した(脱神経後5~6日以降). (2) 脱神経筋表面の軽い叩打, アセチルコリン或はネオスチグミンの投与は, 脱神経筋に放電を誘起し或は放電を増強した. また, アセチルコリン或はネオスチグミンの投与によって, 周期的に規則正しい間隔で反復する放電が現れた. 叩打或はアセチルコリンの投与で誘起される脱神経筋の放電の増加は, 1週の終り頃が最も顕著であった. (3) d-ツボクラリンの投与は, 脱神経筋の放電を全て消失させた. (4) 脱神経筋から最も頻繁に誘導される単一スパイク放電の波形は, 2~3相性で, motor unit potential に比べて, 振幅では両者間に著差を認め難かったが, 持続が著しく短縮している点が特徴的であった. このスパイク放電の放電間隔時系列は, 3型に大別された. また, 一連の長い系列を構成する部分系列が, 必ずしも全部同じ型に属ずるものであるとは限らなかった. (5) 観察の全期間中, 多相性のスパイク放電は, 単一な放電波形としては誘導されなかった.(6) 病理組織学的検査では, 脱神経筋の筋線維全般に著明な萎縮を認めたが, 変性像は全く観察されなかった. 以上の結果について, 特に筋電図学的な立場から考察を行なった.

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