1933 年 9 巻 8 号 p. 775-782
フヂツボカヒガラムシ(Cerococcus muratae Kuw)の介殼の成分中無機成分に於ては硅酸を多量に認めたり.即ち全灰分の約88%を占む.
炭水化物としては, Lignin, Cellulose, Mannan, Galactan, Pentosanを確認せり.之等のものは昆虫成分として,未だ記載を見ざる處なり.又虫體水浸出物中に於ては, Dextrin, Galactose, Mannoseを檢出せり.これ等の物質も亦記載少きか又は無く從つて甚た特異なるものと言はざる可からず.
炭水化物分解酵素としては, Cellulase, Hemicellulase Amylase, Invertase, Maltase, Lactase等の存在を認めたり.これ等酵素の特徴とする處は一般にその作用の緩漫なることなり.尚以上の酵素は消化管を摘出し檢出せしものには非ざるため,虫體自己の消化酵素として速斷は許されざる處なるも,檢出せる炭水化物より考査すればその存在は決して疑問には非ざる可し.尚他主成分たる蛋白質及び蝋質物に就きては後報せんとす.
稿を終るに臨み御指導と御校閲を賜ふ恩師鈴木文助教授に謹みて感謝を捧ぐと共に,便宜と鞭韃を蒙りし工場長伊庭野薫氏,出張所長高橋清氏並に實驗の援助を受けし丸山隆之輔君に厚く謝意を表す.