日本農芸化学会誌
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柑橘類のビタミンC(第3報)
l-アスコルビン酸の酸化と酸類並びに糖類との關係果汁製品のビタミンに關する研究(第5報)
稻恒 長典
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1944 年 20 巻 7 号 p. 363-373

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抄録

(1) 果汁中ビタミンC酸化抑制物質の有力なる因子の酸類及び糖類とl-アルコルビン酸酸化速度との關係を系統的に研究した.
(2) 酸類との關係に就ては酸の構造,濃度及びpHに就て研究した.その結果各有機又は無機酸の種類による酸化抑制作用力の差は酸の構造並びに濃度に左右されpHの影響は殆んど認められない.但し酸性の範圍内に於てである.嚴密に言へばpH1~4の間に於てゞある.
(3) 觸媒としての銅イオン添加の有無によりて一部の酸類にあつてはその酸化抑制力の順位が變更される.即ちメタ燐酸及び多鹽基性酸にあつては常に最上位にしてその順位には變更をみないが,一鹽基性飽和脂肪酸にあつては順位の變更を認める.
(4) 糖類との關係に就て先づ糖濃度とl-アスコルビン酸酸化速度との關係を蔗糖を用ひ實驗した.その結果糖濃度の増加と共に安定度は向上する.
(5) 各糖類は何れも酸類同様顯著なる酸化抑制作用を有し糖類のみによる該作用を知ることが出來る.又銅イオン添加に依る影響としての順位の變更は殆んど認められない.
(6) 種々なる酸(又は糖)を配合せる混合溶液のl-アスコルビン酸酸化抑制力は混合溶液中に含まれるアスコルビン酸の安定に關し優秀なる構造を有する酸(又は糖)に左右される.
(7) l-アスコルビン酸酸化に對して酸類,糖類の共存はその抑制力を酸類又は糖類のみの場合より稍増強せしめ,それらの共同作用を認める.
(8) 以上の諸事實より果汁中ビタミンC安定の原因は其の共存せる酸類のみより説明し得るものでなく,糖類も亦有力なる一因子であり,又酸,糖の共存によりて更に強化せられてゐるものなることを知つた.
終りに御指導を賜りたる鈴木梅太郎先生に深謝する(本報告の大要は昭和18年6月19日 本會東京支部講演會に於て講演した).
第10表 種々なる酸及糖混合液の場合 殘存率(%)
第11表 酸類及糖類の共同作用 殘存率(%)

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