育種学雑誌
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Glycine 属植物の種分化 : 1. Kunitz Trypsin Inhibitor様タンパク質の電気泳動的特性
中村 郁郎喜多村 啓介海妻 矩彦蓬辰 雄三
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1984 年 34 巻 4 号 p. 468-477

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抄録

Glycine属植物の種分化に関する基礎的知見を得るために,ダイズ種子中に含まれる Kunitz Trypsin Inhibitor(KTI)と相同なKTI様タンパク質(KTILP)が野生種の種子中に存在することを証明し,それらの電気泳動的特性を調べた。Glycine亜属4種(G.tomentell,G.tabacina,G.clandestina,G.canescens),Bracteata(=Neonotonia)亜属1種(G.wightii)Soja亜属2種(G.max,G.soja)を供試材料として,各種の種子抽出物をDEAE-セルロースカラムにかけて分画し,各画分のトリプシン,アルファキモトリプシン阻害活性を測定し,得られた阻害活性のピーク画分のKTI抗血清との免疫反応を調べた。G1ツ。伽亜属各種はいずれもKT工抗血清と免疫反応を起す画分を有し,その画分に含まれるタンパク成分の分子量はKTIとほとんど等しかったのでこのタンパク成分をGlycine亜属のKTILPとした。しかし,GlycineのKTILPはゲル電気泳動法においてSおよびFタンパク質の2成分に分かれ,両者の量比(S/F ratio)は種間で違っていた。Fタンパク質は,KTIおよびSタンパク質とは違い,f1およびf2ペプチドがジスルフィド結合をしているタンパク質であると思われる。f1ペプチドはSDSゲル電気泳動において種間で易動度に差がなかったが,f2ペプチドの易動度は G.tomentell,G.tabacina,G.clandestina,G.canescensの順に小さくなっていた。G.wightiiのKTILPはKTI抗血清との免疫反応は認められなかったが,KTIおよびGlycine亜属各種のKTILPと同じNaC1濃度でカラムから溶出し,KTIとほとんど等しい分子量を持つSタンパク質様成分であった。Fタンパク質様成分はSoja亜属2種およびBracteata亜属においては認められたかった。本研究で認められたKTILPの諸性質はGlycine属植物の類縁関係を調べる研究に利用できると思われる。

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