育種学雑誌
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ガンマ線およびエチレンイミンの累代反復処理と交互処理が水稲の遺伝的変異拡大に及ぼす効果 : 人為突然変異の利用に関する育種学的研究 XIV.
谷坂 隆俊山縣 弘忠
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1984 年 34 巻 3 号 p. 335-345

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抄録

水稲品種銀坊主の種子を供試して,10kRと20kRのガンマ線および0.3%と0.5%のエチレンイミン(EI)それぞれによる累代反復処理並びに10kRのガンマ線と0.3%のEIによる累代交互処理を行い,処理当代に現れる稔性障害並びに最終処理後のM2またはM3世代にみられる遺伝的変異の処理回数あるいは処理順序に伴う変化を調査し,突然変異育種における累代処理法の効果について検討を加えた。なお本報では累代処理世代の表示法としてm回目処理後のn世代をmRnで表した。mR1種子稔性は,ガンマ線,EI各2処理量による反復処理のすべてにおいて処理回数の増加とともに低下し,その程度はEIよりガンマ線,低処理量より高処理量で大きかった。一方交互処理においては反復処理とは異たり,mR1種子稔性はm回目の処理に用いる変異原の種類に大きく依存することが認められた。mR2における葉緑素突然変異出現率は,反復処理の場合,処理回数の増加とともに,少なくとも3回処理までは顕著に増加した。しかしながら交互処理の場合には,処理回数の効果よりもむしろmRi種子稔性の場合と同じく最終処理変異原依存性が顕著に現れた。3R3反復処理集団における出穂日,稈長の遺伝分散は対応する1R3集団より有意に大きく,1.9~2.8倍に達した。変異拡大効果は反復処理より交互処理の方が大きく,また交互処理においてはmR1種子稔性およびmR。葉緑素突然変異出現率でみられたような最終処理変異原依存性が認められた。以上の結果から,突然変異原の累代処理とくに突然変異誘発機構の異なる変異原による交互処理は,実用形質の遺侯的変異拡大に有効な手法であること,処理量,処理回数は累代処理の進行に伴うmR1種子稔性の低下が著しくならない範囲で設定すべきであること,さらに交互処理にあっては最終処理に用いる変異原には有用変異体を淘汰しにくいものを選ぶ必要があること,が明らかになった。

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