日本薬理学会年会要旨集
Online ISSN : 2435-4953
第97回日本薬理学会年会
セッションID: 97_3-B-SL19
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特別講演
ヒト睡眠・覚醒リズム研究の現在と未来~睡眠のリン酸化仮説から睡眠健診まで~
*上田 泰己
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抄録

我々は、眠気を記録している実体を明らかにするために分子活性の変動そのものが睡眠覚醒リズムを支配すると考え、哺乳類の睡眠(特にノンレム睡眠)について、神経細胞の活動パターンを直接担うイオンチャネル・ポンプについて、ノンレム睡眠時の神経活動の数理モデリングと、マウス睡眠表現型のスクリーニングシステム(SSS法)、独自に改良したCRISPRを用いたノックアウトマウス作製技術(Triple-CRISPR法)を用いて、細胞内Ca2+動態に直接関与する一連のイオンチャネル・ポンプが睡眠時間制御に重要であることを見出してきた。さらに細胞内Ca2+が制御するリン酸化酵素に着目しCamk2a/bノックアウトマウスが著明な睡眠時間の短縮を示すことを明らかにした。これはCaMKIIα/βが睡眠を誘導するリン酸化酵素であることを意味する。我々は睡眠誘導性リン酸化酵素CaMKIIα/βの発見を元に、神経細胞の興奮持続やエネルギーの枯渇、外的環境変化によるストレスなどの細胞状態・個体状態の履歴をリン酸化を中心とした分子修飾として統合・記録し、神経細胞の興奮性の低下、代謝活動の制御、ストレスによる細胞障害の修復を誘導する睡眠のリン酸化仮説を提唱するに至った。本講演では、動物を用いた睡眠研究の現在を解説するとともに、ヒトにおける睡眠・覚醒リズム研究の現在や未来のシステムに基づく医学(システム医学)の実現に向けた試み、特に睡眠健診の実現に向けた取り組みについても議論したい。

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© 2023 本論文著者
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