主催: 公益社団法人日本薬理学会
会議名: 第95回日本薬理学会年会
回次: 95
開催地: Fukuoka
開催日: 2022/03/07 - 2022/03/09
細胞性粘菌が産生する分化誘導因子(DIF)は、多種類のがん細胞の増殖と運動(遊走と浸潤)、内皮細胞への接着を阻害し、がんの成長と転移を抑制することが明らかとなっている。その作用機序については長らく不明のままであったが、最近の研究により、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化によるmTORC1の活性阻害がDIFの早期シグナルであることが明らかとなってきた。mTORC1が阻害されるとS6キナーゼが抑制され、下流のSTAT3やSnailの抑制を介して細胞増殖や細胞運動が抑制される。また、DIF結合タンパク質の解析から、DIFによりAMPKが活性化されるのは、DIFが2型リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH2)に結合し、これを阻害することによることが示唆される。DIF合成酵素は細胞性粘菌以外の生物では発見されていないが、標的分子のMDH2はほとんど全ての生物で保存されている。DIFの効果が哺乳類にも及ぶのはこのためであろう。植物アルカロイドなど毒を基原とする薬は多いが、DIFのような他の生物のシグナル分子から作られた薬は稀である。この講演では、DIFの臨床応用の可能性についても考えてみたい。