先進国においては,集中治療医学の進歩により敗血症死亡率が減少している一方で,高齢化や肥満に伴って罹患率が上昇している.このため,敗血症の後遺症患者が増え,リハビリに必要なコストが医療を圧迫している.ICU acquired weakness(ICU-AW)は,重症疾患患者の多くが経験する呼吸筋や四肢の筋力低下であり,敗血症患者の50~75%に後遺症として見られる.本疾患は,ICU退院時の人工呼吸器の離脱困難や退院後の日常生活動作の低下を招く.ICU-AWは数年間持続する症例も多く,敗血症サバイバーの社会復帰困難と,長期生存率の低下要因となる.敗血症患者はICU入室中に高血糖,不動,人工呼吸器装着,筋弛緩薬投与,ステロイド性抗炎症薬投与など,多重の筋障害因子にさらされることで,高サイトカイン,高NO,高ROSの状態が複合的に作用し,ICU-AWの発症を引き起こすと考えられる.しかし,ICU-AWの発症機序については不明な点が多く,治療法の開発のためには病態生理学の解明が待たれる.また最近のICU-AW研究により,骨格筋自体が敗血症における炎症応答や代謝異常の主要な臓器であることが明らかになりつつある.本稿では敗血症における骨格筋の病態生理学と治療薬開発の国際的動向について我々の研究成果をふまえて概説する.