日本薬理学雑誌
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特集:COVID-19 治療薬 ドラッグリポジショニングによる承認への挑戦
レムデシビルの開発の経緯と臨床成績
藤田 泰久
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2022 年 157 巻 1 号 p. 31-37

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抄録

レムデシビルは米国Gilead Sciences社(以下,ギリアド社)が開発した,ウイルスのRNA合成を阻害する直接作用型抗ウイルス薬である.コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに対し,細胞培養系及び動物モデルにおいて抗ウイルス活性を示すことが明らかになっており,2015年からエボラウイルス感染症の治療薬として開発が進められてきたが,これまでいずれの国でも承認されたことはなかった.2019年12月に中華人民共和国湖北省武漢市で確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,発熱,咳,呼吸困難などを主な症状とする呼吸器疾患である.重症例では重篤な肺炎や多臓器不全を引き起こし,死に至る可能性がある.米国ギリアド社は中東呼吸器症候群(MERS)及び重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こす一本鎖RNAコロナウイルスであるMERS-CoV,SARS-CoVに対し,in vitro及びin vivoでの抗ウイルス活性が認められていたレムデシビルを候補薬として,COVID-19治療薬の開発に着手した.COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2に対するレムデシビルの抗ウイルス活性がin vitroで確認されたことにより,2020年2月から臨床試験を開始した.米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)及び米国ギリアド社が実施した臨床試験,人道的見地から行われた投与経験の結果を受け,わが国でも「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)に基づく特例承認制度により,2020年5月7日に「SARS-CoV-2による感染症」を効能又は効果として特例承認に至った.本稿では,レムデシビルの開発の経緯,作用機序,及びその臨床成績の概要について解説する.

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