日本薬理学雑誌
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特集 医薬品開発における薬物性QT延長症候群回避のための基本戦略
QT延長作用が明らかでない薬物をどのように評価するか:臨床試験における基本的戦略
熊谷 雄治
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2009 年 133 巻 1 号 p. 8-13

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抄録

薬剤性QT延長症候群はtorsades de pointes(TdP)と呼ばれる致死的な心室頻拍のリスクファクターであり,薬物治療の上で重要な問題である.新薬の開発においてもICH-E14ガイドライン「非抗不整脈薬におけるQT/QTc間隔の延長と催不整脈作用の潜在的可能性に関する臨床評価」の海外での運用が開始されている.このガイドラインにおいて詳述されているthorough QT/QTc試験(tQT試験)はTdP自体の発現ではなく,心電図QT/QTcの延長という代替マーカーを用いてTdPのリスクを予測しようというもの,すなわち,個人で発現するまれな事象を,代替マーカーの全体におけるわずかな平均値の変化で予測する試験である.検出しようとするQT/QTcの変化量は5 msという極めて微少なものであることから,試験計画を立案する際には様々な注意点がある.繁用されている試験デザインは盲検化,クロスオーバー,非投薬時のコントロール測定,プラセボ対照,試験の精度を保証するための陽性対照の使用などである.QT測定は外部中央測定の方法論が確立されており,かなり高い精度の測定結果を得ることが出来るようになっている.QTの測定値に関する最大の問題は,心拍数補正である.特に軽度であっても心拍数の上昇が見られる薬剤については見かけ上のQT/QTc延長が見られることがあり,適切な心拍数補正法の検討が重要である.我が国ではまだtQT試験の実施例は少ないが,今後予定される日本語版のE14ガイドラインの施行とともに増加すると思われ,試験計画立案には個々の薬剤の特徴に応じた充分な考慮が必要である.

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© 2009 公益社団法人 日本薬理学会
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