化学工学論文集
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[特集]未来を担う環境化学工学
牧草類のセシウム・ストロンチウム吸収能の評価—非放射性Cs·Sr添加圃場および寒天培地における比較
菅原 一輝 小川 人士鈴木 誠一井上 千弘
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2017 年 43 巻 4 号 p. 258-263

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抄録

環境中に飛散した放射性セシウム(Cs)およびストロンチウム(Sr)の日本の耕作地における環境動態を調査するために,非放射性CsとSrを圃場に添加し牧草類への吸収特性を評価した.同時に,土壌への吸着の影響を排除するため寒天培地を用いた栽培試験を行い,植物が持つ本来のCs吸収能の検討を行った.圃場試験においては,CsとSrを同時に添加した場合に収穫量が減少したものの,CsもしくはSr単独で添加した場合では収穫量は大きく変わらなかった.植物体中の濃度は,Csを圃場に添加した場合には添加しなかった場合に比べて大きくCs濃度が上昇したが,Srの場合は添加・非添加問わず同程度の濃度であった.しかしながら,牧草に吸収されたCs量は圃場に添加した量の1%程度であり,環境中にCsが放出された場合に植物体へ移行する量は限定的であることが示唆された.寒天培地での試験では,植物体の生長量とCs吸収量の間には正の相関関係が見られた.圃場試験と寒天培地での栽培試験の結果を比較すると,植物体中のCs濃度はCsが作土に吸着すると考えられていた圃場試験と比較的容易に吸収されると思われた寒天培地の結果間で正の相関関係を示した.したがって,圃場作土中のカリウムやカルシウムがCsの作土への吸着を阻害し,植物に吸収されやすい遊離状態に保っている可能性が示唆された.以上の結果から,有機物が多い日本の畑作土においてCsは土壌粒子に吸着し,大部分は植物に吸収されにくい形態になるものの,一部は肥料分の影響によって遊離して植物に吸収される機構が考えられる.

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© 2017 公益社団法人化学工学会
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