日本化學會誌
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海洋に關する化學的研究(第四報)海水中に於ける金の新分離-定量分析法
石橋 雅義品川 睦明
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1939 年 60 巻 12 号 p. 1265-1268

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抄録

1. 海水を3/50に蒸發濃縮後水道水中にてセロフアン膜によりて透析を行ひ水溶性鹽類を逸出分離せしめ、主としてカルシウム,マグネシウムの硫酸鹽,炭酸鹽,硅酸鹽よりなる難溶性鹽類と共に金を殘留せしめ之を蒸發乾涸後坩堝試金法に供して灰吹,分金せんと試みたるも金は殘留せず.
2. 透析前に適當の還元劑を加へて充分攪拌することによりて豫め加へ置きし金液よりの金を膠状金としてセロフアン膜内に捕捉し得ることを試験的に確めた.此の時金の囘收率は約36乃至63%なるを認めた.
3. 此の時用ひたるセロフアン膜(日本セロフアン工業社製品No.600)が金膠状液中最小粒子たる赤色膠状金(直徑2×10-6)cm)すら透析により逸出せしめざることを實驗的に確めた.
4. 次に海水を蒸發濃縮し何等金液を他より加へることなく還元劑のみを加へて透析し海水1000lに就き10-3mg桁程度の金を檢出且つ分離し得た.透析分離法の替りに活性炭による吸着分離法を行ひたる時も同様の分析數値を得た.此の數値は海水より金分析に關する數多き報文中,只F. Haber等の實驗結果にのみ殆ど一致するものである.
5. 海水中の金は製鹽工業に際して苦汁に移行しない事を知つた.
6. 斯の如く著者等は明らに海水中より金を分離分析せりと雖もその量は元より極めて微量にして透析前後の蒸發濃縮或は乾涸の際に要するエネルギーよりするも何等工業的価値の如きはなきものと認める他はない.
然し茲に半透膜,特にセロフアンを用ひてする或は活性炭を用ひてする水溶性鹽類及び膠状金との分離過程は推賞し得可く,而して海水に對しては工業的価値なかりしと雖も一般に金含有溶液への適用に価値ある可く,その他天然水,冶金廢液の如きものにして比較的金含有率高き液より囘收を試みる場合等に本法を適用して有効なる可しと推察せらる.

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