日本化学会誌(化学と工業化学)
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HIV-1プロテアーゼの基質加水分解機構 半経験的分子軌道法(PM3法)による解明
沖本 憲明牧山 稔畑 晶之津田 穣
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1997 年 1997 巻 4 号 p. 260-266

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抄録

HIV-1プロテアーゼによる基質ペプチド加水分解機構を半経験的分子軌道法(PM3法)により明らかにした.まず,酵素一基質錯体を作成し,X線結晶解析により得られた構造をもとに基質ペプチドと,加水分解に関与する水分子を配置した酵素一基質錯体の分子力場計算によるエネルギー極小化を行った.ここで得られた構造は,反応活性部位の二つのAsp残基が水分子を水素結合により保持し,また,水分子は基質ペプチド切断部位(Tyr-Pro)のTyr残基と強く相互作用していた.次に,この構造をもとに,モデル反応系を構築し,PM3法を用いて量子化学計算を行った.結果,HIV-1プロテアーゼによるTyr-Pro加水分解反応は6段階の過程から成ることがわかった.その律速段階は,酵素の活性部位に配位している水分子からOH鵜が生成する過程であり,その活性化エネルギーは,18.9kcal/molであった.実際に酵素が働く生体内の反応温度は,310K付近であり,これら一連の反応は十分に起こり得るものと考えられる.

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