日本化学会誌(化学と工業化学)
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軟体動物から単離した D-アミノ酸を含む生理活性ペプチド
南方 宏之
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1996 年 1996 巻 7 号 p. 595-608

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抄録

アフリカマイマイ(Achatina fulica)の神経節および心臓由来の生理活性ペプチドの探索中, N-端から 2 番目に D-アミノ酸を含む新奇なペプチド(achatin-I および fulicin)を見出した。 Achatin-I は神経節と心房に含まれ,心臓を支配する神経細胞と心室筋のそれぞれに作用して心拍を充進させることから生理的に心臓拍動を制御している。一方, fulicin はペニスけん引筋の収縮を増強し,免疫組織化学的にこの筋を支配する神経と筋内部に存在が認められたことからこの筋の運動の制御にかかわっていることが示唆された。前駆体蛋白質の cDNA から fulicin に含まれる D-Asn は L-Asn に対応する通常のコドンによってコードされ,何らかの翻訳後修飾機構によって D-アミノ酸へ変換されることが明らかとなった。また,構造活性相関および立体構造研究によつて D-アミノ酸残基の役割について検討した。それらは少なくとも次の 3 点に要約できると思われる。 1)活性発現に重要な特定のコンボメーションを安定化させる。 2)生物活性を修飾することにより生物的多様性を生み出す。 3)酵素による分解を抑え,ペプチドの寿命を延長させる。しかしながら,必ずしもこれらの範ちゅうに属さないと思われる例も見出されており,役割についてはまだ議論の余地を残している。

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