日本化学会誌(化学と工業化学)
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酸性霧の化学組成と洗浄効果
井川 学補伽 栄一細野 哲也岩瀬 光司長嶋 律
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1991 年 1991 巻 5 号 p. 698-704

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抄録

霧は地表近くで発生し長時間滞留するために大気汚染物質を吸収しやすいことに加え,雨より径も液滴が小さいために単位体積当りの表面積が大きく,液滴の成長による希釈効果も小さいので,高い酸性度を有している。本研究においては,関東平野南西部に位置する丹沢山塊の東端大山において霧を採取して分析するとともに,雨水および霧の液滴核となるエーロゾルの組成との比較を行った。その結果,1988年7月から1990年8月までの約2年間の霧のpH範囲は2.61~7.00であり,平均pH値は3.95であった。霧,雨およびエーロゾルの主な成分濃度を測定した結果,霧は日によって濃度は大きく変動するが,すべてのイオンの濃度が雨よりも高く,また硫酸イオン,硝酸イオン,塩化物イオンの3種の陰イオンの占める割合は当量比でほぼ同程度であった。また,季節的には春先および梅雨に霧が発生しやすく,さらに,その時期に霧の酸性度が高くなりやすいことが明らかになった。霧液滴内成分濃度の経時変化は大きく,霧水量が小さぐ霧が薄いときと霧発生時に高い。この濃度を大気中のイオン濃度の経時変化に換箕することにより,霧液滴内に高濃度で存在するイオンが短時聞で地表あるいは植物の葉などへ重力沈降して大気を浄化するという洗浄効果が働いていることが明らかになった。このことから,霧という形態を通しての汚染物質の環境への影響は,絶紺量は小さいものの極めて高濃度の酸溶液が長時間にわたって地表や植物を被覆するという特徴を持つことが確認された。

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