1993 年 42 巻 p. 281-284
びまん浸潤型大腸癌は比較的まれであり,本邦では1976年以来244例が報告されている。50歳の女性が腹痛と腹部腫瘤を主訴として入院した。理学的所見では,左下腹部に8×5cmの硬い腫瘤を触れた。腹部単純X線像では,左下腹部に石灰化の像を得た。注腸像では,S状結腸に13cmの狭窄像を得た。大腸内視鏡像では,肛門縁より50cmの部位に狭窄を認め,そこから先への内視鏡の挿入は困難であった。生検組織像は印環細胞癌であった。術中所見では,腫瘍は後腹膜と左の卵巣に浸潤していた(H0,P3,S3,N2(+),Stage Ⅴ)。そのため非治癒切除例と診断し,S状結腸切除術および左卵巣摘出術を施行した。切除標本の肉眼像では,線維化を伴った高度に肥厚した壁と腫瘍の浸潤を認めた。顕微鏡像では,低分化型腺癌を主体とし,一部に石灰化を伴った粘液癌の像を認めた。