日本接着学会誌
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研究論文
In-situ ポリウレタン変性エポキシ樹脂合成時のエポキシ樹脂濃度が酸無水物硬化物特性に及ぼす影響
横山 直樹國武 徹櫻井 慎一郎小林 美子山田 英介
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2019 年 55 巻 1 号 p. 4-16

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抄録

エポキシ樹脂の特長である高強度,高耐熱性等の特性を極力犠牲にせず,低破壊靭性等の脆性を改善することを目的に,in-situポリウレタン変性エポキシ樹脂 (U-BAE) の合成と硬化物の特性評価を実施した。本研究では,液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂( BAE) の濃度を変えてU-BAEを合成し,酸無水物硬化にて硬化物を調製後,モルフォロジーに及ぼす影響,硬化物特性に及ぼす影響および両者の関係を検証した。硬化物の原子間力顕微鏡観察結果から,BAE 濃度20 wt.%で合成したU-BAE 硬化物には,エポキシマトリック (EM) 中にサブミクロンオーダーのポリウレタン (PU) ドメインが凝集した数ミクロンオーダーの凝集構造と同じく数ミクロンオーダーのエポキシマトリック (EM) の球状ドメインが観察された。また,BAE濃度40wt.%の U-BAE硬化物には,PUドメインの2次凝集構造は認められず,さらにエポキシマトリック (EM) の球状ドメインも観察されなかった。最後に,BAE 濃度60 wt.%の U-BAE 硬化物では,PU ドメインが凝集することなくサブミクロンオーダーでEM 中に均一分散した構造が観察された。BAE 中にはn=1 体が含まれるため,合成時のBAE 濃度が低いU-BAE ほど,PU 末端がBAE のn=1 体で封止されない非架橋性の高分子量なPU の生成割合が高いのに対し,BAE 濃度が高くなるほどn=1 体封止の架橋性で低分子量なPU の割合が高い。そのため,後者は,前者よりPU とEM の相溶性が良好と考えられ,前記のような硬化物のモルフォロジー変化が生じたと考えられる。また,U-BAE硬化物の破壊靱性( K1C) は,総ての系でPU 変性率16 wt.%付近に極大値が認められた。これらの挙動に対して,硬化物のモルフォロジー観察結果および引張試験の応力- 歪 (S-S) 曲線測定結果から,2 つの機構を提案した。第1 は,サブミクロンオーダーのPU 粒子の部分相溶によって全体的にEM が適度に可塑化される範囲では,脆性が低減してK1C は増大するが,PU の相溶が過度になるとEM の可塑化が進み過ぎ,亀裂進展が容易になりK1C は減少に転ずる機構である。第2 は,PU ドメインが2 次凝集した構造(ミクロ相分離) を形成すると,この凝集体周辺のEM が局所的に塑性変形してエネルギー吸収するためK1C は増大するが,この2 次凝集体構造が消失するとEM の局所塑性変形もできなくなりK1C は減少に転ずる機構である。

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© 2019 一般社団法人 日本接着学会
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