日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第53回大会
セッションID: A28
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ラン科ムヨウラン属に見られる3者間共生
*岡山 将也谷亀 高広岩瀬 剛二
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抄録

ラン科植物の種子は極めて小さく貯蔵養分をほとんど蓄えていないため, 発芽や初期の生育に必要な栄養分を完全に菌根菌に依存しており, このような菌依存性は菌従属栄養と呼ばれている. ムヨウラン属 (Lecanorchis spp.) は, 日本に10種程度分布しており, 緑葉を持たず生活環全体を通して菌従属栄養となった無葉緑のラン科植物である. そこでムヨウラン属の根に共生する菌根菌を明らかにし, 生態の解明と保全に資する知見を得ることを目的として研究を行った.
採取したラン科植物は, ムヨウラン属の, キイムヨウラン (Lecanorchis kiiensis), エンシュウムヨウラン (L. kiusiana var. suginoana), ミドリムヨウラン (L. virellus), ウスギムヨウラン (L. kiusiana), ムヨウラン (L. japonica), ホクリクムヨウラン (L. hokkurikuensis), クロムヨウラン (L. nigricans), アワムヨウラン(L. trachycaula), シラヒゲムヨウラン (L. flavicans var. acutiloba) および種名不明のムヨウラン属の1種 (Lecanorchis sp.) である. 定法に従い, ムヨウラン属の菌根菌の分離菌株を取得した. 培養菌糸からのDNA抽出にはCTAB法を用いた. さらに, 1 cm~2 cmに切断した根からもDNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN) を用いて, 直接DNAを抽出した. rDNAのITS領域の塩基配列を用いて, 分子系統解析を行い, 菌根菌を同定した.
一部のサンプルからはチチタケ属のチョウジチチタケ(Lactarius quietus)が見出され, ムヨウラン属の菌根菌は全てベニタケ科 (Russulaceae) に属する菌類であることが示された. ベニタケ科の菌は樹木に外生菌根を形成することが知られている. ムヨウラン属は光合成能力がなく, この結果はベニタケ科の菌の菌糸を通して樹木の光合成産物がムヨウラン属に供給されており, 樹木, ベニタケ科の菌根菌, ムヨウラン属の三者間共生が成立していることを示唆するものであった.

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© 2009 日本菌学会
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