日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第61回大会/2018年例会
セッションID: P20
会議情報

小学生の放課後のものづくりの実態と生活技術力
放課後児童育成施設の指導員を対象とした調査から
*井元 りえ亀井 佑子浅井 直美坪内 恭子菊地 英明西原 直枝
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【研究目的】
本研究は、放課後や学校休業日における児童支援施設の指導員へのアンケートを通して,小学生を対象としたものづくりの実態と児童の生活技術力の変化について明らかにすることを目的とする。
【研究方法】
東京都A区教育委員会を通じ、71校の児童支援施設指導員への質問紙調査を実施した。
調査期間:2017年12月
標本数:71名、有効回収数:71名、回収率:100%
【結果】
主な結果は以下の通りである。
1. 指導員の年齢は、30歳代が3名、40歳代が22名、50歳代43名、60歳代が3名であり、50歳代が65%を占めた。
2. 回答者の指導員経験年数は21年以上のベテランが63%を占めた。
3. ものづくりについて、「工作・折り紙・手芸・調理・その他」の5つの分類で具体的な内容を尋ねたところ、「工作・折り紙・手芸」については多くの作品名が挙げられたが、「調理」の内容についてはきわめて少なかった。
・日常的に行われていることは、自由工作(空き箱・トイレットぺーパーの芯・段ボール・牛乳パック等で作る)やアイロンビーズ工作、折り紙などであった。
・ひと月に何回か実施しているものは、作って遊べるもの、木工作(ツリー、車)、マカロニの額、プラバン、コマ等の工作や、編み物、ビーズ、ミサンガなどの手芸も挙げられた。
・季節や行事に合わせたものづくり(お正月の凧、おひな様、鯉のぼり、ハロウィーンの帽子,ランタンなど、クリスマスのリースやカードなど)が行われていた。
・針と糸を使ったものづくりは非常に少ない。
4. ものづくりに関して日頃気になっていることについて尋ねたところ、「子どもの指先の器用さがなくなってきている」、「経験不足」という意見が多く見られた。安全確保(けがの回避)のため、外部講師やボランティアの協力を依頼しているところもある。それは、指導員の数が少なく、現行の指導員数では細かい技術指導や安全が確保できないためである。
5. 子どもの「生活技術が低い」と感じることはありますか?という問いに対し、「①箸の使い方」では、27%が「よくある」、69%が「時々ある」と答え、「②ハサミの使い方」では、24%が「よくある」、58%が「時々ある」と答え、「③ひもの結び方」では、62%が「よくある」、38%が「時々ある」と答えた。
6. 自由記述で子どもの生活技術力について感じていることを記述してもらったところ、生活技術力の低下は、生活全般が便利になってきたことと、家庭でのお手伝いが不足しているとする回答が多かった。また、幼児期に遊びの中で獲得していることが、獲得できておらず、経験不足のため技術力の低下と並行して創造力・工夫する力の低下が見られる。できないことが多いので、指導員が一つ一つ教えている状況がある。
【考察】
 短時間で完成できる工作は比較的行われているが,布や針、糸を使ったものづくりは非常に少なく調理も少なかった。ここには是非やりたいが出来ないという環境がある。指導員だけでは技術を要する作業や食物アレルギーの児童も少なくない状況の中で危険を伴う調理などの作業は、安全面を確保しつつ実践を行うことが難しい実態が明らかになった。家庭環境の格差が広がり生活技術の経験値や技術力の差が大きくなってきた結果、多くの子どもたちの創造力や創意工夫をする力の低下が起きていると指摘されている。
 これらの解決策の1つとして家庭科教育関係者をはじめとする大人が、指導員補助や講師として子どもの生育環境に関わることが社会貢献として有益であると考えられる。

著者関連情報
© 2018 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top