日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A2-2
会議情報

第59回大会:口頭発表
「衣服材料はなぜ布であるか」の意味
-水蒸気移動特性の視点から-
*今村 律子潮田 ひとみ與倉 弘子赤松 純子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.目的 
衣服材料は、紙やフィルム、金属ではなく布である。しかし、布については生活に役立つ物の製作に関連させて取り上げられているため、作品の製作そのものが主目的になり、衣服材料が布であることに意識が届きにくい。学習指導要領解説では、「紙などの他の材料と布との扱いの違いや特性を知り」、「布製品を評価する力を高める」ことが求められている。そこで本研究では、衣服材料が布であることを基本に、データの裏付けのある水蒸気移動特性実験を含め、着方学習を応用発展させる内容を示す。

2.方法
健康な大学生男女9人を研究協力者とし、手を袋状の物で覆った際の袋内温湿度を測定した。袋の条件は、条件A:麻平織試験布(N=12)、条件B:ポリエチレンフィルム(N=12)、条件C:Bのフィルムを1cm程度の幅に裁断し、平編みしたもの(N=8)とした。実験は2015年8~9月に、環境温26℃にエアコンを設定した被服実習室で実施した。安静にした研究協力者の手背に温湿度センサー(HMP45ASPF、VAISALA)を貼付し、測定開始5分後に左右の手に異なる条件の袋を装着した。軽く紐で手首を閉じ、10分間温湿度を測定した。測定間隔は30秒とし、データロガー(AM-8060E、安立計器)に記録した。

3.結果及び考察
(1)各袋装着直前の平均袋内温度は、条件A、B、Cとも 30.1℃であり、装着10分後にはそれぞれ、32.0℃、32.1℃、32.3℃と有意に2~2.3℃上昇したが、3条件間に差はなかった。装着前の平均袋内相対湿度も同様にそれぞれ48.5%、48.8%、48.7%と3条件で差は認められなかったが、装着10分後は、A:49.8%、B:85.7%、C:58.6%となった。条件Aでは、装着前後にほとんど変化はなかったが、条件Bでは湿度が大きく上昇した。条件Cでは、若干の湿度上昇があり、袋の装着1分後から3条件間で有意な差(P<0.01)が認められた。
(2)装着直前と10分後の平均絶対湿度を比較したところ、条件Aでは、15.6g/m3が16.8g/m3に、条件Bでは、15.3g/m3が29.1g/m3に、条件Cでは、15.2g/m3が20.1g/m3にそれぞれ有意に上昇した。条件間の差は、袋素材の水蒸気移動特性が異なったことから生じたと言える。条件A(麻平織)では、吸湿性と透湿性の両方が働いた結果である。条件Cは、素材に吸湿性はないが、細く裂いて平編みにしたため、空隙(編み目)からの透湿性が認められた。ポリエチレンに吸湿性がないため、条件Aと比較して外界に移動する水分量が少なかったことから、袋装着10分時の湿度が条件Aより高くなった。条件B(フィルム)は、吸湿性も透湿性もないため、手からの水分がそのまま袋内にとどまり、袋内湿度が装着前と比較して最も高くなった。

4.まとめ
布を拡大して構造観察することによって空隙(織・編目)は視覚的に確認できる。その確認から、小学校で扱う「快適な着方」に関わる布の性質(保温性・通気性・吸水性)を学習させることは可能である。また、一部の小学校教科書に記載されている「湿気の通しやすさ」も同様に説明できる。本実験は、視覚に加えて手の湿り具合やポリ袋が湿気でくもる様子を体感させることによって空隙の役割を確認でき、衣服材料が布である意味を理解することができるものである。「湿気の通しやすさ」を繊維の性質である吸湿性から教えるのではなく、「布を知る」学習と関連させて取り上げることが必要である。

本研究の一部は、科学研究費補助金基盤B(課題番号:26282011 研究代表:與倉弘子)の支援により実施されました。

著者関連情報
© 2016 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top