日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A2-1
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第59回大会:口頭発表
小学校家庭科における児童の製作実習に対する意識
*大藤 真央池﨑 喜美惠
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抄録

【目的】
   
多種多様な既製服が安価ですぐに手に入るようになった今日、自ら被服を製作したり補修を行う機会は極めて少なく、その技術の必要性を強く感じる場面も減少した。また、家庭科の授業において製作実習の時間は年々削減されており、児童がその技術を身につける機会はますます減衰している。児童は、製作学習や手縫いの実習により、縫製の知識や技術を習得するだけでなく、作品を作る過程で起こる問題を解決する能力を養うことや、苦労しながら作品を完成させた達成感や満足感を味わうことができる。また、作品を製作することは、出来上がるまでには時間や技術、素材、それに込められた思いがあり、ものを大切にする心やその価値を認める目を養うことにも繋がる。また、製作に必要な道具や素材を揃えることや、期日までに完成までさせる手順などを考えることによって計画性が身につき、完成を目指して作業を進める能力を習得できるのではないかと考える。本研究は、小学校家庭科での製作実習における児童の意識を明らかにし、製作実習の必要性や有用性を説くための一資料とすることを目的とした。
【方法】
   
児童の製作実習に対す意識を明らかにするため、都内の小学校第5・6学年の児童638名(男子336名、女子296名、N.A.6名、第5学年330名、第6学年307名、N.A.1名)を対象に、2016年1月~3月に質問紙調査を実施した。質問項目は堀内(1989年)、坂井(2003年)が実施した調査項目を援用した。調査内容は、学習意識、製作に対するやりがい、成就感、技能の難易、実習に対する否定的な意見、家庭での実践についてなどである。
【結果および考察】
1.「家庭科の授業で、縫って何かをつくることをやりたい」では、女子の約85%、男子の約72%が「とても・少し思う」と回答し、男女間に有意差が認められ、女子の方が製作実習に対して積極的であることがわかった。さらに、学年間でも有意差が認められ、第5学年の児童の製作に対する意識が高く示された。また、「もっと難しいものを縫って作ることに挑戦したい」では、女子約76%、男子約57%、第5学年の児童約72%、第6学年の児童約59%が「とても・少し思う」と回答し、性別や学年により有意差が認められた。特に女子や第5学年の児童の方が難易度の高いものでも挑戦してみたいという意識を高く表明していた。
2.「縫って何かを作ることは、やりがいがあることだ」では、男子約42%、女子約61%、第5学年の児童約52%、第6学年の児童49%が「とても思う」と回答し、男女間に有意差が認められ女子の方が製作に対してやりがいを感じていた。しかし学年間には有意差が認められなかった。また、「苦労して縫った作品が出来上がったときはとてもうれしい」では、男女とも9割が「とても・少し思う」と回答し、特に女子の72.3%が「とても思う」と回答し、作品が完成した時の成就感を強く感じていた。
3.製作技能について、しるしつけや裁断、糸通し、玉結び、ミシン縫いなどの技能は簡単であると、4~5割の児童が回答した。また、製作学習に対し、縫って何か作ることを倦厭したり自作のものに批判的な評価をしている児童は少なく、自己の製作技能に対して否定的な意識を示す児童は1割ぐらいであった。また、家庭で家族が縫い物を行っている児童のほとんどが、家庭科や製作実習に対して積極的な意識を持っていることが明らかになった。
4.手縫いの技能の習得などが不十分であるため、初歩の段階でつまずいてしまい、苛立ちを感じている児童がいた。実習は児童にとってやりがいや成就感を得ることができ、学ぶことの多い貴重な学習である。しかし、児童が技能を確実に習得する前に授業が進んでしまうため、製作実習は難易度が高いものだと思い込んでしまうのではないかと思われる。今後の課題として、限られた時間内で、児童に基礎技能の習得を徹底させるための指導のあり方を考案し、製作実習に対する意欲を高揚させていきたい。

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