日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: B3-2
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第59回大会:口頭発表
グローバル社会に対応した高等学校「家族」の授業デザインと資質・能力
*齋藤 美重子望月 一枝川村 めぐみ松岡 依里子大本 久美子
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抄録

【研究目的】

現在日本では生活のさまざまな場面でグローバル化の影響をうけている。教育改革の動向もPISAなどの国際「学力」調査の影響を受けつつ行われてきた。2008年、2009年の学習指導要領の改訂では「基礎・基本」の重視と「生きる力」の育成という方針は踏襲され、グローバル化と「知識基盤社会」の進展という国際的な社会変動に対応するよう明示された。

家庭科ではジーンズを教材として消費生活のグローバル化を問う授業開発(堀内,2011)や地域の伝統と文化に関する授業開発(土橋・志村・斉藤,2011)等が行われている。K学園女子大学の小学校教員を目指す学生23名にアンケートしたところ、これまでの小・中・高等学校の家庭科において「グローバル化にかかわる授業を受けたか」に対して、23名中10名が何も行ってこなかったと回答した。教育界ではグルーバル教育の重要性は認識されつつも実際の教育実践は少なく、生徒自身自分たちの生活がグローバル化と関連しているという意識がない。特に高等学校家族分野ではグローバルの視点は管見の限りみあたらない。

岡野(2012)はグローバル化の中で家族は弱体化していると指摘している。多田(2006)はグローバル時代における共創型対話力の重要性を指摘し、対話型授業を提唱している。

そこで、本研究ではグローバル化を意識させる高等学校「家族」の授業デザインを検討し、資質・能力との関係性を検証したい。インチョン宣言、教育2030をふまえ、グローバル社会とは世界を一つのシステムとして捉え、複雑に関わり合う全体として捉えることとし、生徒に自分たちの現在の状況、グローバル化の中での位置づけを把握させ、ジェンダー平等の視点、社会参画への意欲を高める授業デザインを示したい。


【研究方法】

①グローバル化を意識した高等学校家族分野の授業デザインを、望月(2015)のケアをシティズンシップ概念に組み込むこと、多田(2006)の対話型授業を援用して授業を構想し実践する。

②実践された授業を石森(2013)の指標項目を参考に生徒の振り返りから資質・能力との関係性を分析し、グローバル化を意識させる家族分野授業カリキュラムを開発し、その成果と課題を探る。

なお授業実践は2015年10月~2016年2月、私立中高一貫男子校の高校1年3クラス計130名を対象に行った。


【結果及び考察】

家族の授業の導入として、「主な国の合計特殊出生率の動き(欧米)(アジア)」(「平成27年版少子化社会対策白書」内閣府)、及び「世界の高齢化率」(「平成27年版高齢社会白書」内閣府)のグラフを読み解く対話型授業を行い、世界における自分たちの生活の立ち位置を確認させた。授業では問題発見・課題認識に大きな効果が見られた。グラフを読み取る対話型授業は自分の学びを表現でき、ジェンダーの視点に気づかせるものだった。次に自分自身の生き方を探究する視点を持たせるため、幼稚園実習や救世主べビーに関するアサーション・ディベートなど計6時間のカリキュラムを開発した。

生徒の記述分析の結果は次のとおりである。

第一に出生率等のグラフを読み取る対話によって国や地域単位の差異と異文化理解にとどまらず、生徒同士の差異と理解が進み、多様性の理解が重層的になった。つまりジェンダー平等の視点、当事者性から社会を問い直す視点、社会的な支援の必要性と具体的な手立ての理解が深まった。第二にディベート準備の調べ学習及びディベートにより、主体的に学ぶ力、情報発信力、コミュニケーション力を高めていることが明らかになった。つまり知識・技術を使って他者や事物と関わり合う学習をし、学習が進むにつれ、獲得した知識が生徒の中で生きた知識となり、資質・能力の支えとなることが示唆された。第三に文脈に沿った知識の学び方が資質・能力を育み、さらなる高次な学習のスタートとなることが解明された。


*なお本研究は日本家庭科教育学会課題研究(1-3)による研究の一部である。

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