日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: B2-4
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第59回大会:口頭発表
男女必修家庭科20年間の高校生の意識・実態の推移
ジェンダー観、生活主権者意識を中心に
*荒井 紀子春貴 良幸村田 尚未
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抄録



【目的】
1994年度より開始された高等学校男女必修家庭科が2014年で20年目を迎えた。1999年には男女共同参画社会基本法が制定され、男女が共に学ぶ家庭科は定着した。この間、日本社会は、少子高齢化が進み、保育や介護などの生活問題が顕在化するとともに、震災を背景に、持続可能な生活や共生社会への関心が高まっている。その一方で、2単位科目「家庭基礎」の履修校が増加し、学習時間の減少によって高校生が家庭科を学ぶ機会が削られている現実もある。
本研究では、男女必修家庭科の開始年、10年目、20年目の調査をもとに、高校生の意識・実態について、生徒のジェンダー観や生活主権者意識を中心に比較・分析し、変化の特徴を明らかにするとともに、その背景や課題について考察する。
【方法】
福井県、長野県、京都府を中心に、進学系、職業系の計5~10校の高校生を対象に、ほぼ同一の質問項目を用いて、約10年ごとに質問紙調査を実施した。これら3つの調査:1994年調査(荒井・鶴田)、2003年調査(荒井)、2014年調査(荒井・春貴・村田)の結果をもとに検討する。
調査項目は、基本属性(性別、学科、履修科目、希望進路、両親タイプ)と意識・実態(ジェンダー観、自立意識、生活実践度、生活主権者意識、家庭科の教科観・学習観)である。このうち、生活主権者意識(市民性)については、消費者意識、政治への関心、社会活動参加意識の3点について尋ねた。調査校については、ほぼ同様になるよう設定している。
【結果と考察】
1.ジェンダー観については、ジェンダーにとらわれない傾向を示す割合は、性別でみると全ての項目で女子の方が高く、その傾向は、いずれの調査にも共通している。経年変化でみると、ジェンダーにとらわれない傾向は2003年度調査が最も顕著で平等意識が高まっている。1994年と2014年はほぼ同様の程度を示しているが、ジェンダーバイヤスの意識をはっきり示す生徒の割合は減ってきており、特に男子にその傾向がみられた。
2.身の回りのことや家事にかかわる生活実践度は、いずれの調査でも男女ともに低い。性別では女子の実践度が男子よりも高いがその差はわずかであり、性別にかかわらず日本の生徒の親任せの実態は変わっていない。経年変化をみると、女子は食事づくり、衣服選択のいずれも低下傾向にあり、男子は若干実践度が上昇している。
3.自立意識では、男子の自立にとって家事、育児ができることが重要と回答する男子の割合が増加し、また政治への関心や市民のマナーについても自立にとって重要とする割合が男女ともに増加している。男女必修家庭科は、特に男子の意識や実践に影響を及ぼしているといえる。
4.社会活動参加意識は、経年的に見て、全体的に高まっており、特に女子が積極的で、市民性(シティズンシップ)の芽生えがみられる。2つの大震災を経て、高校生が以前より地域や社会の生活に目を向ける傾向がでてきていると考えられる。
5.家庭科を「身辺処理や家事を学ぶ教科」というより「生活について総合的、実践的に学ぶ教科」と捉える生徒が増加している。生活を多角的に捉える家庭科への理解度が上がっていると思われる。また、家庭科を学ぶことによって暮らしへの関心が高まったと肯定的に捉える割合が男女ともに増加する傾向がみられた。
 ジェンダー意識が2003年調査をピークにやや低下傾向がみられること、生活実践度が低いままであることは、家庭科の履修単位減による授業時間数の減少も関係していると推測される。しかし、その一方で本調査では生徒のジェンダー観や自立意識、衣食住の実践、市民性・生活主権者意識は相互に密接に関連しあっていることが示唆されており、これらの知見を生かしたカリキュラムや学習方法の構築が課題であると考える。

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