日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: B2-3
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第59回大会:口頭発表
住生活教材としての「住宅リフォームすごろく」の開発
*杉浦 淳吉三神 彩子
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抄録

住生活は私たちの生活の根幹となるものである。しかし、身近である一方、各家庭によって居住環境が異なることから指導が難しいのが現状である。リフォームの必要性や、それが省エネルギーにどうつながるのかという理解の促進は、中等教育における家庭科で取り上げる課題であるが、実際の家庭科教育の現場に目を向けてみると、小川ら(2014)の東海四県の中学校および高校の家庭科教員を対象とした調査からも、住生活分野が十分に扱われていない実情が浮かび上がってくる。 一方、日本の住宅ストック戸数約6、060万戸(2013年)の内、国の定める断熱性能を満たしている住宅の割合は約5%しかない。無断熱の住宅では、年間の暖冷房のためのエネルギーが国の定める断熱性能基準を満たした住宅に比べ約2.5倍も必要となる。また、断熱性能の低い住宅では、暖房している部屋としていない部屋の温度差が大きくなり、冬の「ヒートショック」や夏の「熱中症」などの危険性が高まることが指摘されている。 そこで、本研究では、中学校・高等学校の家庭科補助教材として、ゲームを通して住環境の抱える問題点や改善方法を知り、省エネ・健康・快適な暮らしを実現することを主眼に住宅リフォームを題材にしたゲーム・シミュレーション教材として『住宅リフォームすごろく』を開発し、家庭科教育での活用について検討することとした。開発は、住宅や省エネ及びゲーミング・シミュレーションの専門家らにより共同で行われた。 本教材では、ゲームを用いた問題解決の手法「ゲーミング・シミュレーション」を取り入れ、ゲームで問題意識を持たせてから、次に具体的説明をすることで生徒の関心を引き出すことを目指した。問題構造をゲームで表現することで、参加者はルールに従って役割を演じながら、問題と解決方法を学習していくことができる仕組みとなっている。また、ゲームを行った後にディブリーフィングというプロセスを経ることで、さらに学びを深めることができる。本教材ではゲームシステムとして双六を用いているが、双六は学習者にとって馴染みやすいだけでなく、実社会で体験すれば長時間かかるプロセスをフローチャートによって短時間に追体験することができる特徴を持つ。 住宅リフォームすごろくは、4名1組で行い、ゲームボード、6種類の住宅リフォームカード、コマ、サイコロ、ポイント記入表からなる。ゲームボードには「問題認識ゾーン」、「住宅リフォームゾーン」、「問題解決ゾーン」、「行動改善ゾーン」、「地球環境ゾーン」の5種類のゾーンが設定されており、「リスクの認識からその解決へ」というストーリーが展開される。学習者はスタート時に100ポイントをもち、各ゾーン・マス目でのイベントで上下するポイントを多く保持した者が勝利する。問題認識ゾーンでは、既存住宅における様々なリスクを学ぶ。住宅リフォームゾーンでは、認識された問題からポイントを支払ってリフォームするかどうかの意思決定を行う。問題解決ゾーンでは、各自のリフォームの有無をもとにリフォームの効果を学習する。行動改善ゾーンでは、リフォームだけではなく、一人ひとりが省エネ行動をとることの有効性を学習する。最後の地球環境ゾーンではゲーム内で体験してきた個人のミクロな行動と地球レベルのマクロな環境問題との関連を学習する。 ゲームには、住宅リフォームと省エネルギーに関する教師用解説書があり、住居、環境、省エネなどに関する知識を得やすいよう工夫がされている。現在、学校教育をはじめ広く住生活教育関係者へ活用の呼びかけを行っており、中学・高等学校の家庭科などの授業でも実践の取り組みが進んできている。実践報告や活用事例も含め、教材の意義と普及への取り組みについて報告することとする。

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