日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: B1-6
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第59回大会:口頭発表
魚食文化の発展・創造に向けた家庭科の授業デザイン
―富山県の高校生の実態調査から―
*中川 寛大堀内 かおる
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抄録

【目的】 中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善において」(2008)では、家庭科の関連事項として「衣食住にわたって伝統的な生活文化に親しみ、その継承と発展を図る観点から、その学習活動の充実が求められる」と明記された。つまり、食文化を学ぶ意義として、食文化の伝承・継承と食文化の発展・創造が挙げられる。食文化は時代や環境などに応じ常に変化し、未来に向かって進化していくものであり、食文化の発展・創造に向けた家庭科の授業デザインは、今後の課題として重要であると考える。本研究では特に魚食に注目した。日本の食文化をみると、魚介類と大豆が主要なたんぱく源として利用されてきた。魚介類は捕り尽くさなければ、持続的に得ることができる食料資源である。富山県は富山湾に面し、他の都道府県と比較して魚介類の消費量は多いが、近年その消費量の減少が指摘されている。そこで本研究では、富山県の高校生の魚食の実態や食文化への意識などを把握することにより、魚食文化の発展・創造に向けた家庭科の授業デザインを検討するための基礎資料を得ることを目的とする。
【方法】 富山県立高等学校3校に通う生徒506名(男240名、女266名)を対象に、2016年1月~2月にかけて質問紙調査を実施し、491名から回答が得られ(有効回収率97.0%)、統計処理された。
【結果と考察】
1.魚食の実態 魚介類を食べることの好き嫌いについては、「好き」が80.4%と高率であり、魚介類を食べる頻度は、「週に2~3日」が59.5%と最も高かった。魚介類を食べることの好き嫌いと魚介類を食べる頻度とのクロス集計から、魚介類を食べることが好きだからといって食べる頻度が増えるわけではないことが示唆された。普段よく食べる魚介類の種類は、サケが最も多く、サバ、ブリ、アジ、イカの順番で多かった。内食、中食、外食それぞれにおいて、肉類を使った料理と魚介類を使った料理とではどちらが多いか尋ねたところ、中食と外食では肉類を使った料理が多く、内食では中食・外食と比較して魚介類を使った料理が多くなる傾向が明らかになった。
2.魚介類に対する意識 「魚介類を食べることは、日本の食文化である」に「そう思う」と回答した生徒は95.3%、「魚介類を食べることを次の世代にも伝えていきたい」に「そう思う」と回答した生徒は92.7%であった。「魚介類を食べることは、日本の食文化である」と捉えている生徒は、それを「次の世代にも伝えていきたい」と考えていることが示唆された。「魚介類は資源である」に「そう思う」と回答した生徒は89.2%、「魚介類を乱獲していないか気になる」に「そう思う」と回答した生徒は73.5%である一方、「魚介類の育成・漁獲・流通過程について関心がある」に「そう思う」と回答した生徒は37.1%であり、魚介類は資源であり、乱獲してはいけないと捉えながらも、実際には魚介類の育成・漁獲・流通過程を注視しない現状が示唆された。
3.学校で食文化を学ぶ意味 学校で食文化を学ぶ意味として、「食文化に関する知識を習得するため」が51.5%で最も高く、次いで「食文化に関心をもつため」が48.8%であった。高校生は食文化を学ぶ意味を知識の習得や関心をもつことと考えていることが明らかになった。一方、「食文化を発展させ、新しい食文化をつくり出していくため」が3.5%と低率であり、食文化を学ぶ意味として、食文化の発展・創造がほとんど意識されていないことが示唆された。男女間では、「食文化に関する技術を習得するため」で男子が有意に高率であり、「食文化に関する知識や技術を日常生活にいかすため」、「食文化を受けついで伝えていくため」では女子が有意に高率であった。
 今後の課題は、本調査をもとに魚食文化の発展・創造に向けた高等学校家庭科の授業をデザインし、授業実践を行い、その有効性を検証することである。

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