日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A4-2
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第59回大会:口頭発表
肖像写真を媒介とした中学生と被災地居住者をつなぐ授業実践
-手紙の分析を通して-
*安部 明美工藤 由貴子
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抄録

【目的】
2011年4月、プロカメラマンやヘアメイクの有志によって「3.11肖像写真プロジェクト」が立ち上がった。被災した人たちに元気になってもらい肖像写真を残すこと、それを広く人々と共有して共感の輪を広げていくことが、その活動の目的である。本報告は、そのプロジェクトとの連携による家庭科の授業実践である。近年、自然や人とのふれあいをはじめとする体験等、子ども期に大切な学習の機会や場が得にくくなっており、参加体験型の学びが重視されている。このような学びは、身近にいる人との関係だけではなく、もっと広がりのある関係性においても構築できるはずであり、経験の少ない中学生には、自分の身のまわりの事象のみに限定するのでなく、広がりをもった社会を「体験し」「ふれあい」「つながる」体験をさせたい。本報告は、以上のような問題意識のもと、3.11東日本大震災の被災地居住の人たちと神奈川県の中学生とが交わした手紙の分析を通じて、間接的な関係性においても、適切なしかけによって、子どもたちが主体的にかかわり「ふれあう」ことを創る効果を生んでいるということを確認し、授業実践の効果を検証することを目的とする。
【方法】
1.分析対象 ,2014年度に中学1年生が被災地居住者に書いた手紙110通と2011 年12 月以降から2014年3月に至るまでに、筆者の勤務校に被災地居住者から届いた手紙76通。
2.分析方法  手紙の文章全体を対象としてデータベース化し、キーワードを抽出。その後、キーワードを統合し、絞り込み、出現数10以上のキーワードをクラスター分析にかける。
【結果】
中学生の手紙は、5つのクラスターと77個のキーワード、被災地居住者の手紙は、4つのクラスターと81個のキーワードに分類された。それぞれのクラスター分析結果を通して、以下のことが明らかになった。1)中学生と被災地居住者共に、生きる希望、お互いを思いやる気持ちが入ったポジティブなキーワードが多い。体験を共有しながら、立ち直ろうという気持ちが双方にあると考えられる。2)中学生自身の学校生活や家庭生活を振り返りつつ、将来に対する夢や希望を語る、あるいは生活の中で大変と考えていることを吐露する言葉も見られる。3)震災で一命を取り留めた状況から立ち上がり、強く生き抜こうとする意思が被災地居住者には強く見られる。出現頻度数もかなり多い。そしてその思いは、周りの人々の支えがあるからだという感謝の気持ちにあふれている。手紙がその支えの重要な部分になっていると考えられる。4)中学生、被災地居住者共に、震災当時の恐怖等を思い起こしながらも、前向きに生きようとする共通する感覚がある。以上のことから、中学生と被災地居住者をつなぐ授業実践を通して中学生は被災地居住者と震災の記憶を共有する、あるいは気持ちを理解できていた。また被災地居住者も中学生と共通する感覚を持つことができている部分が多かった。よって、授業実践が、「ふれあう」ことを創る効果を生んでいるということが確認できた。子どもが生活場面での「経験」を、身についた「本物の体験」にしていくには、単発的ではなく、継続的な活動を行うことの重要性、子ども自らが主体的にかかわること、そのためのしかけが必要であることが示唆された。また、日常的にふれあえる対象のみでなく、離れたところにあるもの・人・こととつながることのできるしかけも有効であることが示唆された。子どもにとっては、多くの事柄が実際に体験できるものばかりではない、それらに対して如何に自分に関係のあることとして当事者性を持たすことができるかを考えていく必要がある。

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