日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A3-6
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第59回大会:口頭発表
家庭科の授業における批判的思考を促す「相互作用」の有効性
*土屋 善和堀内 かおる千葉 眞智子
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抄録

1.本研究の目的 
  今日、学校教育において、21世紀型能力の育成が指向されており、その力の中核に位置付く「思考力」の1つとして批判的思考力が挙げられている。批判的思考力は、省察性や創造性を持ち、意思決定や問題解決を伴った実際の行動を決定づけていく力であることから、土屋(2015)は批判的思考力を、生活を創造するために必要な力とみなし、家庭科における学力の1つとして位置付けた。家庭科の学力である批判的思考力を育成するためには、どのような家庭科の授業を展開する必要があるのか。批判的思考を促し、批判的思考力を育む授業を検討するにあたり「相互作用」に注目した。「相互作用」とは、他者と関わり合うことであり、Ennis(1985)は、批判的思考の能力を実践的に活用する場面として捉えた。また道田(2007)は、「他者との出会い」により自分が気づかないことに気づき、考える幅を広げることができると述べていた。以上より、他者と関わり合う 「相互作用」が批判的思考を促す手立てとなると考えられる。
そこで本研究では、「相互作用」によって批判的思考が促されることを明らかにするために、生徒の談話に着目した。本研究の目的は、「相互作用」における生徒の談話を分析することで、「相互作用」の中での生徒の関わり合いや生徒の思考過程を把握し、批判的思考を促すための「相互作用」の在り方を明らかにすることである。
2.研究方法
本研究は、2015年2月に高校2年生を対象にしたチョコレートを教材とした消費生活領域の授業を2時間実施した。本授業では、生徒が社会的な課題に目を向け、「消費者」としてこれからの消費生活について考えられるようになることをめざした。そのために、本授業では、2つの「相互作用」の場面を、「相互作用Ⅰ」「相互作用Ⅱ」として設定した。
【相互作用Ⅰ】チョコレートに関わる消費者・生産者・企業がそれぞれ何を想っているのかをグループで思考した。相互作用Ⅰは、多様な視点から問題を捉えることで、チョコレートの背景にある問題の本質に迫るための活動として設定した。
【相互作用Ⅱ】チョコレートの背景にある社会的な問題に対して高校生の私達ができることを思考した。ここでは、社会的な問題に対して自分達には何ができるのかを吟味・検討する場面として設定した。
以上の2つの「相互作用」の生徒の談話を録音し、録音した談話を文字に起こして「相互作用」における生徒 の発言を分析・考察した。
3.結果及び考察
相互作用Ⅰでは、生徒は、消費者・生産者・企業といったそれぞれの立場から、チョコレートの背景にある児童労働が引き起こす問題や引き起こされた要因について追究しており、様々な思考を巡らせていた。児童労働が引き起こされる背景にある三者の関係性にも目を向けている班もあった。一方で、別の班では、話し合いを進める中で、班全体で同じ思考・視点になり、別の視点が入り込む余地がなくなってしまったことから、生徒同士の「相互作用」の限界も見出された。
相互作用Ⅱでは、問題の解決方法について意見を出すだけでなく、出された意見が自分達高校生でもできることなのかを吟味・検討することで、実生活を想定して、自分の生活を振り返った上で可能かどうかという観点から考えを練り上げていく様子がうかがえた。相互作用Ⅱにおける議論が、批判的思考を促し自分達ができる範囲での実生活における消費行動を考えることにつながっていった。
以上のように、「相互作用」では、生徒が関わり合うことによって相互に作用し、互いに影響を与え合う場面として設定されなければならない。したがって、生徒が意見を出し合うだけではなく、提示されたテーマやそれに関わる内容について議論をしていく中で生徒の思考が深まる「相互作用」が必要である。今回のような「消費者・企業・生産者」といった多様な視点から、また「私達高校生」といった「当事者」として吟味・検討できる内容であったからこそ、生徒は様々な思考を巡らし批判低思考が促されたと考えられる。

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