日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A2-4
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第59回大会:口頭発表
「自分自身の生活に引き寄せ」「世界とのつながりを考える」グローバルな家庭科の授業の検討:
学校設定科目「グローバルライフ」衣生活分野の学びの分析より
*横瀬 友紀子河村 美穂
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抄録

研究目的:2014年度からスーパーグローバルハイスクール(以下、SGH)の指定が開始され、グローバルな視点を育む取り組みが実践として広がりつつある。私たちの生活が諸外国と関係し合って成り立っている現代社会において、生活の諸課題を通して具体的にまた広がりを感じながら考える家庭科の実践は、生徒が世界とのつながりを自分のこととして考えやすいという点からも有効だと考える。
  本研究は、SGHに指定された高等学校で開発されている学校設定科目「グローバルライフ」(家庭科関連科目)で実践した衣生活分野の学習において、生徒が「自分自身の生活に引き寄せ」「世界とのつながりを考える」ための教育方法を工夫し、実践して検証することを目的とする。
  「自分自身の生活に引き寄せる」「世界とのつながりを考える」という二つの視点は、グローバルな人材育成の根幹として家庭科で育みたいグローバルな視点である。2014年度に実施した授業をもとに昨年度報告した研究では、自分に引き寄せることは容易であるが、社会や世界に向かって視野を広げることが難しいことが明らかになった。そこで、本研究では生徒が自分自身の生活に引き寄せて世界とのつながりを考えるために、具体的な事象を多面的な視点から学ぶ方法を工夫し生徒の学びを授業記録をもとに分析し明らかにすることとした。
研究方法:本研究が対象としたのは、2015年度2学期に実施した衣分野6回(計12時間)の授業である。(1)なぜ服を着るのか、クラスメイトの着装はどうか、といった問いをもとに生徒の日常に身近な衣服をより身近なものであることに気付かせる。(自分自身の生活に引き寄せる)(2)生徒自ら安価な労働力を用いて生産される衣類の現状について情報を収集し、ディベートを通して、自分の考えをもつ。(世界とのつながりを考える)という工夫をした。具体的には、生徒が持参した私服を着用し相互インタビューなどを通じて着装や衣材料について学び(4時間)、「ファストファッションは私たちの生活に必要か、不要か」についてディベートを行い(7時間)、ディベートでの議論をもとにした教員による講義「ファストファッションの光と影・エシカルファッションとは」による振り返り(1時間)という構成とした。
   本授業の前後に衣生活を中心とした「自分自身の生活に引き寄せ」「世界とのつながりを考える」質問を設定した質問紙調査を実施し、その結果と毎回の授業の生徒による授業記録、レポート課題の記述も分析対象とした。
結果と考察:授業の前後に実施した質問紙調査では、多くの生徒が衣生活に関して「自分自身の生活に引き寄せ」考えることができるようになった。同時に「世界とのつながりを考える」設問への関心度が上昇した生徒も全体の約15%おり、これらの生徒は、世界規模での衣類の現状や生産の実態を理解したうえで、衣服の消費に関わる私たち自身の問題について考察した記述をしていた。これらは、衣類に関わる問題を構造的にとらえ、その一端に自分が関わっていることを認識した記述であり、世界規模での問題解決が難しいことを理解した上で、自分にできることは何かを考えようとしている記述であった。
  生活に根付くグローバルな課題は、恩恵にあずかっている(日本に暮らす)私たちが問題の構造に気付き自分の生活とどう向き合うか考え続けなければならないものである。今回一定程度の生徒が、これらの問題を自らの問題と受け止めつつ簡単に解決しない問題であるがゆえに引き受け続けようとしている記述が見られたことは、本授業でディベートを通して多様な意見を聴き合うことができたこと、ファストファッションが高校生の生活になくてはならない身近な教材であったこと、自ら目的をもって情報収集できたことがその要因としてあげられる。生徒がグローバルな課題に向き合うためには、惹きつける身近な題材の選定、問題の構造を多面的に理解させること、生徒自身がその問題にどのように関わるかについて考察する機会を設けることが必要であると考える。

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© 2016 日本家庭科教育学会
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