日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第58回大会・2015例会
セッションID: A2-6
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第58回大会:口頭発表
新しいコミュニティ創りと子どもの生活体験をつなぐ家庭科の実践
*安部 明美工藤 由貴子
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抄録

【目的】
少子化等を背景に急激な高齢化・人口減少社会を迎えた現代社会では、持続可能性が大きな課題となっており、これまでの社会経済のしくみ、コミュニティのあり方、ライフスタイルや働き方の見直しが必要とされている。地域づくりにおいても、これまでのような経済面の「活性化」を目的とした取り組みではなく、それぞれの地域の特徴を生かし、持続可能で人々が幸せを実感できるコミュニティの形成が求められている。そのためには、若い世代を中心に多様な人々の参加や交流の促進に対する期待が大きい。
一方、そのような期待を担う若い世代の生活体験不足、「生きる力」の脆弱さへの懸念が広がっている。家庭科としても、自ら参画し、社会に働きかけ、社会を創りあげようとする力の形成、生涯を見通して生活を創造する主体者を育てる学びを可能にするカリキュラム開発が求められている。
本研究は、この2つのニーズを結びつけることによって両者にとって望ましい成果が生まれるのではないかという仮説のもと、新潟県糸魚川市根小屋区をフィールドとして、地域の課題解決と子どもの生活体験の獲得をつなぐ家庭科の実践モデルを提示することを目的としている。本報告では、子どもたちの生活体験の実態把握と集落での暮らしに関する調査の分析を通して、両者をつなぐ実践の有効性を検討する。
 
【方法】
上記の目的のもと、大きく2つの調査を実施した。
1.生活体験に関するアンケート調査 
時期:2014年11月~2015年1月 対象者:公立小学校5,6年生292名 公立中学校1~3年生355名 県立高等学校1年生268名 大学1年生105名 方法:自記式質問紙調査 項目:家の仕事、赤ちゃんやお年寄りとのふれあい、体験活動 アンケート調査票総数:1,020票 有効回答率:100.0%
2.新潟県糸魚川市根小屋区での暮らしに関する集落調査
調査時期:2014年8月~11月 項目:生育暦、生活の満足度、集落活性化への要望 方法:有識者と高校生以上から50歳までの半構造化インタビュー、全戸自記式質問紙調査、参与観察

【結果と考察】
1.子どもの生活体験に関しては、多くの先行研究があり、体験不足の子どもたちの意識や行動の実態が報告されている。本研究の調査結果からも同様のことが指摘できる。特に、生活体験の如何は子どもの生活環境に左右されること、また、日常的な生活体験と自然体験との関わりについても明らかになった。子どもの生活体験を豊かにしていくには、自然環境を含めた生活環境の中で生きることを具体的にイメージさせながら、単発的ではなく、恒常的なとりくみを行うことで、課題を発見し、それを乗り越える力をもつ子どもを育成するという新たな教育が生まれることが示唆された。
2.新潟県糸魚川市根小屋区集落調査からは、定住意識の如何に拘わらず、根小屋の生活に満足している人が多く、他地域の人を受け入れる土壌ができていること、また、根小屋の今後は、自分たちの手で創っていきたいという意思をもつ人が年齢を問わず多いことが示された。地域の抱える課題の解決に向けて若い世代のコミュニティづくりへの参加に対する期待が持たれていること、また、自然と歴史・伝統文化を生かした体験活動ができる地域の宝がたくさんあることも明らかになった。
以上のように、課題を抱える地域での新しいコミュニティ創りと子どもの生活体験とをつなぐ家庭科の実践の有効性が示唆されたといえる。子どもと地域をつなぐ教育プログラムを作成し実践へとつなげていくこと、その第一歩として直接体験と間接体験の融合を図る家庭科の授業実践をすることを今後の課題としたい。

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