日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第47回日本家庭科教育学会大会
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第47回大会ポスター発表
アクションリサーチによる教師の学びの過程
-自己評価の効果の探索的検討を通して-
内藤 利枝子鎌野 育代伊藤 葉子
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p. 44

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抄録

目的
本研究はすでに平成13年5月~14年3月に実践したアクションリサーチの続編にあたる。前回のアクションリサーチでは、教師の目標や評価基準を提示した上で生徒の自己評価活動を進めていくことの効果が示されたと同時に、問題点も明らかにされた。そこで、今回は生徒個々が目標をもって自己評価活動を展開していくような様式を用いることとした。本研究では、前回から今回のアクションリサーチの実践へと発展していく過程や、今回の自己評価様式への取り組みにおける教師の省察過程を報告することによって、アクションリサーチを通しての教師の学びの過程を明らかにすることを目的とする。また、この目的を果たすために、継続して取り組んできた生徒の能動的・自律的な学びにおける自己評価の効果についての探索的検討から得られた知見も示していく。
方法
前回のアクションリサーチでは、1年間の保育学習において3人の教師がそれぞれの自己評価様式を用いた後、数回の研究会を設け、問題点を確認した。
今回は、そのうちの2人の教師と研究者によって共通の自己評価様式を開発し、生徒の学びの過程に関する資料の収集方法を決定し実践した。対象とした授業は、衣生活に関する授業のなかのアームカバー製作(中1対象・全7時間)と保育に関する授業のなかの絵本製作(中3対象・全12時間)である。生徒は、それぞれ最初の授業で個々の目標をたて、製作に取り組んでいった。製作過程における形成的自己評価や教師・仲間からの評価、生徒個々のたてた目標に対する最終的な自己評価が記録として残るような様式の自己評価表を用いた。教師が生徒の学びをもとに研究会で話し合ったり、省察していくための資料を得るために、この自己評価表のほかに、授業前後に質問紙調査・面接調査(自己評価表や質問紙調査結果をもとに、自己評価の効果が高いと捉えられる生徒を対象)、を実施した。
結果
前回のアクションリサーチによって明らかにされた自己評価の問題点は、教師が目標や評価基準を提示していくことによって、その評価基準の枠内に教師と生徒の学びがとどめられてしまうことであった。その問題点について話し合い、今回の自己評価様式を開発していくなかで、教師が目標とする学力をどのように保障していくのか、生徒個々の能動的・自律的な学びをどのように展開していくのかが焦点化された。二人の教師は言語化することを通して、自分自身の学力観や授業観についてあらためて自覚し、結果的には別々の題材を選ぶことになった。そして、クラスの全生徒が同じアームカバーをつくるという題材と個々の生徒が自分らしさを生かしながら絵本をつくるという題材のそれぞれにおいて共通の自己評価様式を用いることにより、生徒の学びを比較しながら二人の教師が互いに意見交換していった。
つまり、アクションリサーチの実践を通して、互いの教師が学びを共有することと、教師の個性を尊重した上で固有の学びを発展させることの両方が備わることによって省察が深まることが示された。
一方、自己評価の効果については、生徒自身が自分の目標をもつことにより、能動的に自律的に製作していくという自覚をもてること、製作過程における自己評価と教師や仲間からの評価との相互作用が製作品を完成させる動機づけになること、自己評価活動の効果が高いと捉えられる生徒の自己評価過程には共通の傾向が示唆されることが明らかになった。

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© 2004 日本家庭科教育学会
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