日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第47回日本家庭科教育学会大会
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第47回大会口頭発表
高校生の職業観、生活観が生活設計に及ぼす影響
~都立高校生に対する調査の分析を通して~
*坪内 恭子大竹 美登利
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p. 20

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抄録

【目的】高校生が将来、経済的基盤を確かなものにし経済的自立を獲得するためには、具体的・現実的な近未来の職業選択を中心とした生活設計を思い描き、その実現に向けて一歩を踏み出すことが重要である。しかしながら、家庭科の学習において生徒の多くが具体的な生活設計を描けないでいる。その原因の一つとして、高校生の経済的自立の基盤としての職業が見えにくくなっていることがあげられる。
このような現実を踏まえ、本研究では生活設計の学習の基礎に職業の選択ができることが重要であると考え、どのような要素がそれに関係しているのかを明らかにするために調査を行うこととした。具体的には高校生の「生活実態の認識」「職業観」「就労経験」「経済的自立意識」が、職業を中心とした生活設計の具体性にどのように影響を及ぼしているのか、そして、これらは「性別」によってどのように異なっているのかを検証した。
【方法】調査方法としては、2003年7月、東京都立高校11校の第2学年生685名を対象に調査を行い、アンケートの配布と回収は各学校の家庭科担当教諭に依頼した。
【結果】その集計結果を分析した結果、「学卒後の職業」の設計の明確さと「中年期の生活費」および「中年期の職業」の設計の明確さは非常に相関が高いという結果が得られた。このことから、近未来の生活設計の明確さは、20年後の生活設計の明確さに連動しているといえる。「生活実態の認識」の高さは「中年期の生活費」の設計の明確さと関係しており、「学卒後の職業」や「中年期の職業」の設計の明確さには限定的に関係している。積極的な「職業観」と「経済的自立意識」の高さは、「学卒後の職業」「中年期の生活費」および「中年期の職業」の設計の明確さに影響している。「就労経験」の有無と「生活設計」の明確さについては、有意差は見られなかった。しかし、条件を絞って検討すると、男子の進学率上位校で「学卒後の職業」に、進路多様校と専門学科高校の「中年期の職業」にプラスに働き、「進学率上位校」の女子には、「中年期の生活費」と「中年期の職業」の設計の明確さにおいてマイナスに働いている。「性別」に関しては、積極的な「職業観」「経済的自立意識」は男子の方が高く、「生活実態の認識」においては、項目によって男女差が出た。「就労経験」については、女子の方が経験率が高いという結果が得られた。また、「学卒後の職業」の設計の明確さは「女子」のほうが高いのに対し、「中年期の生活費」を「自分で」まかなうという意識は男子のほうが高い。しかし、「中年期の職業」においては、男女間に差が見られなかった。その理由としては、「学卒後の職業」においては、女子が「目標明確」な者が多かったにもかかわらず、「中年期の職業」では、男女差がほとんどなくなっていることから、女子の中には「学卒後の職業」を腰掛けと考えている者が存在すると考えられる。また、この傾向は「中年期の生活費」を「他人任せ」にするとした者に特徴的に見られることから、専業主婦志向がこの要因であると考えられる。これらの結果を踏まえ、高等学校家庭科の授業へ「生活実態の認識」を高める授業内容の導入及び積極的な「職業観」と「経済的自立意識」の育成が必要であること述べる。また、「就労経験」については、現実に高校生が体験している「就労経験」は、「アルバイトの経験」が大部分であることから、高校生に対しもっと質の高い「就労経験」の機会提供の必要性を提案する。

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© 2004 日本家庭科教育学会
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