東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-39
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一般口述
予後予測から歩行能力改善を目指して ―両側に全人工膝関節置換術を施行した症例―
*尾田 健太大川 千枝佐藤 陽介磯 毅彦
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キーワード: 予後予測, TKA, 歩行
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抄録

【目的】 今回、両側変形性膝関節症により左膝に全人工膝関節置換術(以下TKA)を施行、2ヵ月後に右TKAを施行し、T字杖歩行自立で退院となった症例を担当した。本症例へ予後予測を行うことは、術前の評価から術後の問題点を挙げることができ、早期の能力改善につながると考えた。そこで、左TKA後の評価から右TKA後の早期の歩行能力改善に向けた予後予測を行い、治療を進めたので報告をする。
 本報告に際し、当院倫理委員会の承認のもと、本症例へ紙面・口頭にて説明し、同意を得た。
【方法】 左TKA後の評価を元に早期の歩行自立へ向けた予後予測を行い、治療を展開する。
〈症例紹介〉 82歳女性。診断名は両側変形性膝関節症。平成23年11月に当院へ入院。12月に左TKAを施行。平成24年2月に右TKAを施行し、4月に退院となった。
〈理学療法評価〉 左TKA後(術後22日)の関節可動域検査(右/左)膝関節屈曲80°/90°、伸展-15°/0°。徒手筋力検査(右/左)膝関節屈曲4/3、伸展4/3。坐位・立位の重心移動時、荷重側への上部体幹側屈が出現。体幹の立ち直り、骨盤と股関節の動きは見られなかった。また立位の左荷重時には左膝ロッキングが見られた。歩行時は左立脚期の膝ロッキングと方向転換時に重心の左右動揺によるふらつきを認めた。左TKA後の治療を進める際、右膝内反変形位での歩行訓練は歩容が悪化すると考え、主治医と相談し、右TKA施行まで歩行訓練を中止した。そこで、評価結果から右TKA後の歩行時に生じる問題点の予測を行った。
〈予後予測〉 左股・膝関節の筋出力低下により左立脚期に膝ロッキングが見られ、同様に右TKA後の右立脚期も膝ロッキングが出現すると予測した。また、左TKA後の重心移動時の反応から、体幹の立ち直りと股関節による制御が困難と考え、右TKA後も同様の反応により方向転換時にふらつきを出現させると予測した。
〈理学療法〉 左TKA後は、体幹及び股・膝関節の深部筋の賦活を目的に臥位にて運動を行った。さらに、股関節の支持向上を目的に坐位にて荷重時の骨盤・股関節の動きを誘導した。右TKA後、立位時の重心移動に対する体幹の立ち直りと股関節の支持向上を目的にリーチ動作訓練を追加した。
【結果】 右TKA後(術後25日)は、股・膝関節の筋出力が向上し、歩行時の膝ロッキングは見られなかった。坐位の重心移動では上部体幹側屈が減少し、骨盤と股関節の動きが見られ始めた。訓練追加後、坐位・立位の重心移動時に体幹の立ち直り、骨盤と股関節の動きが出現した。その為、方向転換時のふらつきが減少し、T字杖歩行自立となり、10m歩行は12.3秒となった。
【考察】 T字杖歩行自立へつながったのは、筋出力向上や重心移動時の体幹と股関節の制御が獲得できたからと考える。さらに、左TKA後の膝ロッキング、方向転換時のふらつきに着目し、右TKA後の歩行の問題点までを予測、継続した治療を行えたことも要因と考える。
【まとめ】 本症例は予後予測を行うことで、退院まで継続した理学療法が可能となり、早期の歩行自立へとつながった。術前から理学療法を行う際は、評価から次に生じる問題点を予測し、治療手段の選択を繰り返すことが機能と能力の改善に重要であることを改めて感じた。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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