東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P041
会議情報

舌癌の両側頸部リンパ節転移に対して機能的頸部郭清術を施行した一症例
*山崎 彰悟西 恭男薮越 八重子宮北 裕子山本 由乃田中 眞也松本 成雄紺谷 悌二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】頸部郭清術は頭頸部癌の頸部リンパ節転移に対し行われる外科的な治療である。頸部郭清術の主な術式には、根本的頸部郭清術、機能的頸部郭清術の2つがある。今回、両側頸部リンパ節転移に対し右側は内頸静脈・副神経を、左側は内頸静脈のみを温存した機能的頸部郭清術を同時に施行した症例の理学療法を担当したので報告する。
【症例紹介】65歳女性。H19.12.17舌悪性腫瘍切除術施行。H20.3.31両側頸部リンパ節転移認められ、4.14両側頸部郭清術施行。
【術前評価】両側肩甲帯・肩関節のROM-TおよびMMTはともに正常。上肢のADL能力は、日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA score)の日常生活動作群項目を使用し10/10点であった。
【理学療法経過】術後1日目より肩関節のROM運動、筋力増強運動を開始。術後9日目、ROM-T(右/左)は他動運動で正常。自動運動で肩甲帯挙上は正常、肩関節屈曲115°/115°、外転60°/60°。MMT(右/左)は肩甲骨挙上3/3、内転1/1、下制と内転0/0、肩関節屈曲3/3、外転2/2。術後14日目より頸部のROM運動開始。ROM-T(右/左)は自動運動で頸部屈曲35°、伸展20°、側屈10°/10°、回旋30°/30°。術後56日目、ROM-T(右/左)は自動運動で頸部屈曲55°、伸展40°、側屈20°/20°、回旋45°/45°、肩甲帯・肩関節は変化なし。筋力はMMT(右/左)で肩甲骨挙上4/4、その他は変化なし。JOA scoreの日常生活動作群項目は8.5/10点で減点項目は「結髪動作」・「頭上の棚の物に手が届く」・「上着を着る」であった。
【考察】頸部郭清術では副神経を温存しても術中に筋鉤などにより副神経が圧迫・牽引され僧帽筋麻痺を呈することがある(以下stretching injury)。この場合、術後約6カ月間は僧帽筋麻痺の状態が継続するという報告や、2年以上経過しても僧帽筋麻痺の回復がほとんどみられなかったという報告もある。本症例では両側ともに肩関節周囲筋の筋力低下がみられた。これは、左側は副神経の切除、右側は副神経のstretching injuryに伴う僧帽筋麻痺により、肩甲胸郭関節の運動が障害され正常な筋収縮が阻害されたためと考えられた。このことから、筋力増強運動については肩甲胸郭関節の生理的な動きを介助しながら肩関節周囲筋の筋収縮を促した。減点がみられたADL動作については頸部のROMの改善や脊柱伸展などにより可能となった。今後、右側に関しては副神経の回復の可能性があり、回復に伴う肩関節周囲筋の筋力の改善の可能性がある。しかし、左側は副神経切除に伴う僧帽筋萎縮および肩関節周囲筋の筋力低下がさらに生じる可能性がある。そのため、これらの点に留意した長期的なフォローが必要であると考える。

著者関連情報
© 2008 東海北陸理学療法学術大会
前の記事 次の記事
feedback
Top