近年,気候変動が河川流況・水資源に与える影響が懸念されている.立川らはHydroSHEDの1km分解能の地形データから日本全国の流量を計算する全国分布型流出モデル1K-FRMを構築し,温暖化予測実験の気象データを入力として河川流況分析を行った.これをさらに氾濫リスク分析につなげることが重要であるが,氾濫解析を日本で流域全体に適用するのは計算コストがかかり,かつ効率的でない.そこで本研究では,気候変動に伴う氾濫リスク評価に向けて,1K-FRMの計算を必要な領域のみネスティングして,3秒空間分解能で流出計算から氾濫計算までを一体的に行う分布型流出・氾濫モデルを構築した.流出・氾濫一体型モデルはBatesらによって提案されたInertial Modelを用いて河川流量および氾濫水深を計算し,1K-FRMの計算領域内の任意の小領域をネスティングするようにした.Inertial Modelは,運動方程式の移流項を無視した運動式および連続式を連立して計算し,陽解法で差分化を行うため高速に計算を行うことができる.このようにして,高速で任意の領域をネスティングするモデルを構築した.今後は,モデルに堤防および都市の排水効果を組み込み,実際の洪水・氾濫現象を対象に,モデルの妥当性を検証する予定である.