クロマツはマツ材線虫病により天然資源がほぼ滅失し、現在は有名松原等の植栽林(人工林)を残すのみとなった。これら集団毎の遺伝的変異の保全には、種子採取から種苗植栽という人為的維持更新の上で現存する遺伝的変異をいかに適正に次世代(種子プール)に保全できるかが課題である。本研究では、採種母樹の選定基準や適正な採種母樹集団サイズ等を含めたクロマツ林の遺伝子保存戦略の検討に取り組んだ。福岡市の有名松原「生の松原」において、現存する成木集団から約280個体を選定して核SSRマーカーに基づきDNA分析を行うとともに、うち70個体から球果を採取し、約1,620種子(母樹あたり最大24種子)を対象として同様にDNA分析を行った。その結果、母樹毎の種子の遺伝的多様性は、母樹の胸高直径と有意な負の相関関係が認められ、小径な母樹ほど種子の遺伝的多様性が高かった。また、種子プールの遺伝的多様性は、採種母樹数が10(遺伝子多様度)~30(対立遺伝子の有効数)以上でそれぞれ頭打ちとなる傾向が見られ、集団内の次世代の遺伝子プールをカバーするためには概ね30母樹以上の種子プールが必要なことが示唆された。