マツノザイセンチュウ(以下ザイセンチュウ)は、東アジアや西ヨーロッパのマツ林に激害を及ぼしているマツ材線虫病の病原体である。近年、ザイセンチュウに関する分子生物学的研究が数多く行われるようになったが、遺伝子発現の解析にはRNA抽出が必要であり、これに多くの時間・労力がかかることが研究の障害となっている。ザイセンチュウからのRNA抽出の際、最も労力がかかるのが虫体の粉砕作業であり、これまでは液体窒素でザイセンチュウを凍結させ乳鉢・乳棒、あるいはバイオマッシャー等を用いて物理的に粉砕していたため、少数個体からの抽出精度を確保するのが困難であった。そこで本実験では、DTT・SDS等の化学変性剤やProteinase K等のタンパク質分解酵素を組み合わせて、あるいはISOHAIR等の核酸抽出キットを用いて、虫体を化学的に分解する方法を検討した。その結果、一部の手法でRNA抽出が成功し、RNAの分解指標の一つであるRIN値も8.0以上と良好な結果が得られたので、他の線虫種でのRNA抽出結果と合わせて紹介する。