近年、関東地方においてニホンヤマビル(以下、ヤマビル)の吸血被害が問題化している。栃木県では、2011年以降、これまで生息が確認されなかった地域においても吸血被害が報告されるようになった。ヤマビルは、吸血という特徴を持つため、古くからの分布地が把握されている上、移動性が低いと予想されることから、その遺伝構造を調べることで、近年の栃木県および、関東地方の分布拡大がどのように生じたのか明らかにできると考えられた。そこで、古くからの分布地である神奈川県、千葉県、群馬県、栃木県の計6集団と、栃木県の近年の分布拡大地域の3集団の計9集団(114個体)から解析試料を採集した。吸血動物の血液混入を防ぐため、尾吸盤からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAのCOI領域の塩基配列(658bp)を決定した。そして、ハプロタイプ間の系統解析、遺伝的多様度の算出、およびミスマッチ分布解析を行った。その結果、関東地方の9つのヤマビル集団から19のハプロタイプが検出され、集団遺伝構造を有することがわかった。さらに、栃木県の近年の分布拡大集団は、過去にボトルネックを受けた可能性が示唆された。