【目的】森林性で、飛翔能力をもたないオサムシ類であるクロオサムシとルイスオサムシは、関東地方付近で側所的に分布する近縁種である。どちらも、房総半島に孤立した分布域を持っており、2種の隔離個体群どうしも分布を接している。この隔離個体群どうし、あるいは他の地域に分布する同種や他方の種の個体群との遺伝的関係、浸透交雑の有無等を調べ、隔離個体群の遺伝的特性を明らかにする。【方法】房総半島における分布境界付近を中心にサンプリングし、得られた個体について、雄交尾器の多変量解析を中心とした形態解析、ミトコンドリア遺伝子ND5領域の解析を行った。【結果と考察】サンプリングの結果、約1.3km離れた2地点間で2種の分布が入れ替わっており、その中間の地点では混生していることが確認された。形態解析では明らかな種間雑種は発見されなかったが、遺伝子解析では房総半島の2種の間で複数のハプロタイプが共有されており、過去の浸透交雑による遺伝子流動の存在が示唆された。現在、両種の混生が狭い範囲に限られ、側所的分布が維持されている要因として、2種間で配偶行動を起こすことで生殖干渉が働いている可能性が考えられた。