日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P5110
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防災
風化花崗岩現流域間の渓流水質構成の相互比較
*勝山 正則大手 信人速水 香奈
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抄録

源頭部流域での観測結果を他流域に拡張することを目的に,複数の風化花崗岩森林流域の渓流水質を相互に比較し,その水質形成機構をMixing modelを用いて考察した.観測は滋賀県南部に位置する桐生水文試験地において,試験地全体(以下桐生と呼ぶ.面積5.99ha)および4つの内部支流域(赤壁,0.086ha;ヒノキ沢,0.40ha;マツ沢,0.68ha;リョウブ沢,1.75ha)に観測網を設けて行った.マツ沢流域をReference site,他流域をTest siteとし,まずマツ沢流域の渓流水質を主成分分析(PCA)を合わせたEnd-Members Mixing Analysis(EMMA; Christophersen and Hooper, 1992)で解した.その後,Hooper(2003)の手法に従い,他流域の渓流水質がマツ沢流域で得られた知見から説明可能かを検証した.1996年6月以降に採水されたマツ沢渓流水のNa+,Mg2+,Cl-,NO3-,SO42-,SiO2の6種類の水質データセットに対してPCAを適用した.第2,3主成分までの累積寄与率はそれぞれ81.3,88.2%となった.この場合,観測機会の約80%の渓流水質が3つのEnd-Memberの混合で説明され,4つのEnd- Memberを考慮すると約90%が説明されることを意味する.またPCAにおいてよく用いられる,固有値が1以上となる主成分のみを考慮するという"rule of 1"(例えばHooper,2003)に従えば,本研究では第2主成分までを考慮すればよいことになる.降水およびマツ沢流域各地点の地下水の平均濃度を渓流水の第1,2主成分から得られた空間(U空間)に投影し,渓流水とともにミキシングダイヤグラムに示したEnd-Memberとして3成分を考慮すると,渓流水は湧水点直上に存在する恒常的飽和帯の最深部の地下水(G2-400),林外雨(Rainfall),および降雨時に土層の薄い斜面部で発生する飽和側方流(G10)を結ぶ三角形内部にほぼプロットされる.また,第4のEnd-Memberとして簡易貫入試験で基岩面以下と判断された(勝山ら,2004)基岩地下水(GC)を含めた四角形には全ての点が含まれる.ただし,G2-400とGCは比較的近い位置にプロットされ,他のEnd-Memberに比べて組成が似ている.End-Member以外の地下水も同じ多角形内にプロットされる.渓流水は流量が小さい範囲ではG2-400およびGCの地下水付近にプロットされ,流量増加に伴って林外雨,G10の飽和側方流の影響が大きくなる傾向が見られる.これは降雨に伴って流域内部の飽和域が拡大し,その影響が渓流水質に現れたことを意味する.次に各流域の渓流水をマツ沢流域のU空間に投影した.全ての流域の渓流水がマツ沢流域のEnd-Memberを結んだ多角形内にプロットされることから,各流域の渓流水質形成はマツ沢流域と同様に混合過程で説明される.ただし,流域ごとにダイヤグラム上でプロットされる位置が異なり,リョウブ沢,赤壁,桐生,ヒノキ沢流域の順で恒常的飽和帯(G2-400)の地下水の影響が小さくなる.ヒノキ沢流域は他流域に比べて年間流量が少なく,また無降雨期間が継続すると流量が観測されなくなることから,渓流水には直前に降った降水やそれに伴って発生する飽和側方流の影響が大きく現れていると考えられる.また桐生流域は各支流域の合流が影響するため,ダイヤグラム上で中間に位置する.本研究で対象とした流域では,各流域の渓流水質が同じMixing Modelで説明され,流域内での水質の時間変動や流域間の水質の違いは,流出に主として寄与する成分が異なるために生じた.またこれらの変動は流量の時間変動や流域間差との関わりが見られた.

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© 2004 日本林学会
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