日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3041
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動物
人工林におけるニホンジカの土地利用
大規模実験柵を利用した直接観察
*伊藤 英人堀野 眞一野宮 治人北原 英治丹羽 慈松尾 浩司上條 隆志
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抄録

1.はじめに 現在、ニホンジカ(以下シカ)は日本各地で増加し、最も広い面積で農林業被害を与える動物となっている。そのため、増えすぎた個体の管理と、農林業被害の軽減などが緊急の課題となっている。 管理計画を策定するうえで、シカがどのような場所を何の目的で利用するのかといったシカの土地利用に関する情報が不足している。 本研究では、一定の生息密度におけるニホンジカの日周行動及び植生利用を、直接観察法によって明らかにする。同時に、シカの基礎的な行動生態の把握を目的とする。2.調査地 茨城県北部の高萩市と里美村の境界に位置する国有林に設置した大規模実験柵(面積1/4 km2)に、ニホンジカ1頭(雌、3歳)を2002年6月に導入した。柵内は、シカの生息密度に換算すると4頭km-2に相当する。柵内の植生は、造林地・保残帯・新植造林地に大別される。保残帯の林床にはササ(ミヤコザサ・アズマザサ)が優占する。3.方法 2003年4月から、毎月20日前後に1回24時間連続で(13時から翌日の13時まで)直接観察を行いシカの植生利用を詳細に記録した。シカから2-5mの間隔を保って追跡し、毎分0秒(正分)におけるシカの姿勢(歩・立・座)と行動を記録した。また、シカの位置を、地図上に時刻とともに記録した。植生利用を明らかにするため、9月から10月にかけて柵内の植生図を作成した。4.結果 柵内の植生を、林冠と林床の相観をもとに9つの植生タイプに分類した。 一日の総移動距離は2.6_km_から10.6_km_であった。 食物供給源としての植生は、シカの土地利用に大きな影響を及ぼしていると考えられる。採食物の選択性を明らかにするため、採食回数の種類別の比率を求めた。10月に落葉の採食が2割ほど確認された。 正分における各植生タイプにいた回数を各植生タイプの面積比で割って利用密度を求めた。シカは座って休息する時間が一日のうち8時間ほどで一定していた。採食及び反すう・休息に費やす割合に大きな変化が見られなかった。5.考察 4月に多く食べていたササは筍であったように、各植物をそれぞれのフェノロジーに応じて柔軟に採食していることがわかった。このような食性の可塑性が、シカが増加している原因の一つではないかと推測される。 新植地や保残帯では食料資源が多く、シカの利用頻度が高かった。採食植物の分布が、シカの行動に影響を及ぼしている可能性がある。特に新植地は林床が明るいため、下刈り施業後も林床植物の伸長が良く、かえって萌芽による新しいシュートやミヤコザサの新稈が豊富に供給されることが原因と考えられる。 生息密度を測定する際に、食痕に表れにくい落葉の採食や、植生タイプの違いによる局所的な密度および利用形態の差に注意する必要があることが、直接観察によって明らかになった。

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© 2004 日本林学会
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