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第115回 日本林学会大会
セッションID: P2062
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経営
金沢市における里山の分布特性と土地利用多様性分析
*坪内 義樹島崎 浩司土屋 大輔中野 貴雄田中 和博
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抄録

金沢市においても独自の景観ならびに生物多様性を保全するうえで里山を維持・管理していくことは重要である。しかし,里山の内容や構造は地域によって様々であるため,里山を類型区分し,類型ごとに適した維持・管理の方策を立てる必要がある。本研究では,里山の類型区分に必要な基礎資料を得ることを目的として,里山の分布特性と土地利用多様性の分析を試みた。具体的には,金沢市を代表する二次林であるコナラ群落,クリ‐ミズナラ群落について選好的分布域を推定し,ならびに土地利用多様性指数を求めた。さらに,その結果を実際の土地利用と比較し,保護,保全策が必要とされる地域の検討を行った。
研究対象域は,金沢市において林班として指定されている範囲すべてとした。コラナ群落,クリ‐ミズナラ群落の選好的分布域を推定する際にはJacobs Index(Jacobs,1974)を用いた。この指標は,もともと魚類の捕食に関する選好性を数量化する指標である。Jacobs Indexをこれら2つの群落に適用し,標高,傾斜角,斜面方位,累積流量(集水面積),土壌の5つの環境要因に対しそれぞれ選好性のある地域を抽出し,更にそれらすべてが重なり合う地域をコナラ群落,クリ‐ミズナラ群落それぞれの選好的分布域とした。
土地利用多様性を分析する際には,土地利用多様性指数(Land Use Diversity Index=LUDI)(田中,2000)を用いた。LUDIとは,ランドスケープを構成する複数のパッチ類型の面積,形状,多様度に基づいて,その土地利用の多様性を数量化したものである。本研究では,環境省による自然環境情報GISの植生図における群落をパッチ類型とし,その多様度には環境省の定義する植生自然度を用いて林班をランドスケープの単位としてLUDIを算出した。LUDIは,植生自然度の高い群落が数多く,なおかつパッチが均一に分布し,形状も複雑である場合に高い値を示す。
Jacobs Indexによる解析の結果,コナラ群落では標高が50から350m,傾斜角が0から15°の比較的緩やかな南向き斜面上部(尾根を含む)の褐色森林土壌,赤色土壌に選好性が認められた。一方,クリ‐ミズナラ群落については標高が400から550m,傾斜角が20から45°の比較的急な東向き斜面中腹の褐色森林土壌,岩石地に選好性が認められた。
LUDIによる分析の結果,緑の多い住宅地が大半を占める林班で土地多様性が最も低かった。反対に,値の高い林班を構成する主な群落はコナラ群落,クリ‐ミズナラ群落,ケヤキ群落などであった。コナラ群落の選好的分布域を実際の植生分布域と比較したところ,コナラ群落の選好的分布域に緑の多い住宅地や竹林が存在している場合が認められた。これらの地域では今後これ以上の住宅地や竹林の拡大を防ぐ必要がある。これとは反対に,選好的分布域ではない地域にコナラ群落が存在している地域も認められた。この地域は,石川県の指定する医王山県立公園区域と重なっており,コナラ群落を維持する何らかの働きが加わっているものと考えられる。クリ‐ミズナラ群落についても同様の比較を行ったところ,クリ‐ミズナラ群落の選好的分布域にスギ・ヒノキ・サワラ植林やコナラ群落が存在している地域が認められた。コナラ群落がクリ‐ミズナラ群落の選好的分布域に存在している地域は,今後,両方の群落がともに混在する多様性の高い里山として維持していくことが望ましい。この地域も医王山県立公園区域と重なっており、LUDIも高く,保全活動を行っていくうえでは重要な地域であると考えられる。
今回の解析により金沢市における里山の分布特性ならびに土地利用多様性の高い地域が明らかになったとともに,特色のある地域や重要と考えられる地域を見出すことができた。これらの地域については今後、現地踏査による検証が必要である。

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© 2004 日本林学会
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